第2話 負け組★桃イスハーレム



 はい、現実逃避終わり。

 ここからはちゃんと現実を見よう。逃げても捕まるだけだからな。


 俺は諦めると、あらためて状況を認識した。

 今、俺の周りには三人の女性がいた。その三人の誰もが仮に恋人にできたら自慢したくなるような美人なのだ。

 美女はそれぞれ美しいドレスで着飾っていて、それがまた似合っている。

 まるでお城から飛び出てきたお姫様のよう……というか、正真正銘のお姫様たちだった。


 一人はほっそりとした体つきの立ち姿が美しい女性。ディーアモーネ・アクアレイク。

 一人は笑みを浮かべた顔に自信あふれる勝気な美少女。マリーアネット・アクアレイク。

 一人はやわらかい笑顔と豊かな二つの胸部が魅力の美人。サフィアローザ・アクアレイク。


 名前からわかる通り三人ともアクアレイクの王族。俺の従姉妹たちである。

 そんな美しく高貴な彼女たちが俺を囲んで何をしてるのかというと、彼女たちにしてはかわいらしい遊びといえるだろう。

 その遊びとは椅子取りゲームである。

 ………

 はいはい、また現実逃避しましたよ。かわいいなんてとんでもない。

 彼女たちの椅子取りゲーム、その椅子というのは俺なのだから。


 ディーアモーネの小ぶりのお尻。

 マリーアネットの張りのあるお尻。

 サフィアローザのやわらかいお尻。


 三つのお尻が四つん這いになった俺の背中を取り合っている。

 美少女のお尻、それも一人ではなく三人も、ってことになるとそうそう触れられるものではない。そんなことができれば男としては喜びを感じずにはいられないだろう。

 もっとも椅子になって背中で、となれば話は別だ。

 俺は決してマゾ豚ではないのだ!


「ディーアモーネ、どいてくれる? 今日のクリスは私の椅子の日なんだから」


 サフィアローザが俺の背中を独占するディーアモーネに言う。

 言うまでもないがそんな日はない。

 椅子の日ってなんだ、椅子の日って。毎日椅子してるのに椅子の日もないだろ。

 ……なんか目から汗が出てきた。ぶひぃぃ。


「サフィアローザ、昨日の午後、私たちが公務をしている間ずっとクリストいたと聞いているのだけど? 今日は譲るべきではないかしら?」

「それはそれ、これはこれよ。ルールとして優先日という制度を決めたのだからそれは順守すべきよ。誰も使っていないときのクリスはフリーなのだから、フリーの時間に使ったから優先日を譲れというのは話としておかしいわね」

「フリーの俺は俺のものなんだが。あと人のこと使うとか言わないでくれる?」

「それとも優先日以外は接触禁止にする?」


 ……聞いてない。


「それは……」

「反対よ。禁止にするなら二人だけでやって」

「私も禁止する気はないから、するならディーアモーネだけね」

「そんなこと認められないわ!」


 ディーアモーネが興奮して声を荒げつつ立ち上がってしまうと、サフィアローザがするりとお尻を乗っけてきた。

 やはり感触だけで判断するとサフィアローザのお尻が一番良い……なんてな。

 どんなに良くても良いなんてことはないんだよ、この状況じゃな。うん、良くない。


「そういうわけで今日は私の日よ」

「……しかたないわね。今日のところは譲るわ」


 ディーアモーネは不満げに言って、俺じゃない普通の椅子に座った。


「マリーアネットは静かね? 何か文句はないの?」


 先ほどから静かなマリーアネットにサフィアローザが問いかけたが、マリーアネットは愚問だとばかりに小さく笑った。


「私は八年もクリスに座り続けてきたのよ? ほんの少しくらい貸し出したくらいで騒ぐような、心の貧しい女だと思われているのなら心外だわ」

「うらやましい話ね。クリスったらどうして最初の獲物に私を選んでくれなかったの?」


 おかしいから。さっきから会話がおかしすぎるから。

 座り続けてどや顔。貸し出す? 心が貧しい? うらやましい?

 ツッコミどころが多すぎて追いつかない。

 いや、まぁ、おかしいというなら最初からおかしかったんだが。

 主に俺の扱いがな!



 ■□

 □■



 さてと、そろそろ言い訳せつめいが必要だろうか。

 数日前決闘で勝利し、従姉妹たちの心身を禁呪で縛ったはずの俺が、なんでまだ人間椅子なんかしてるかといえば、この三人以外の女王候補たちへのカモフラージュのためだった。


 このクリスティアーノの世界は物理的に女性が強い世界だ。

 そしてここ、アクアレイク王国は女王が統治し、女性が社会を動かす、女性上位の国なのである。

 男は基本女性の心身を慰めるためだけの存在であり、王子である義明=クリスティアーノもそれは変わらない。

 いずれ国内の有力な王侯貴族、もしくは他国の有力者へと政略結婚の駒として使われることになっただろう。


 日本人としての感覚を持つ義明=クリスティアーノは当然そんな境遇を受け入れられず、一つの計画を立てた。

 その計画とは男女平等ならぬ『俺女平等』計画である。

 この国の中心、いずれ国を動かすことになる女王候補である従姉妹たちに自分のことを認めさせて、住みよい境遇を構築しようという計画だった。


 そのプロローグとして第1位女王候補のディーアモーネを決闘で認めさせ、乱入してきた第8位のサフィアローザも切り札のマリーアネットの協力で認めさせることに成功した。

 それで今に至るわけだが、女王候補たちは他の従姉妹含めまだまだかなりの人数がいて、彼女たちに俺がディーアモーネやサフィアローザに勝ったと知られると高確率でまずいことになる。

 それを悟られないための人間椅子継続である。

 強めに言っておくが決して望んでやってるわけじゃない。大事なのことなのでもう一度言うが望んでやってるわけじゃない。

 座りを直すようにサフィアローザの柔らかいお尻が背中で揺れたが、もちろん嬉しくは……ない。




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