第6話 決着☆二つの禁呪
「まだ決着は決まっていないという顔ね?」
覚悟を決めた俺の顔を見て、ディーアモーネは少しだけ警戒したようだ。そんな彼女に向けて俺はにやりと笑って見せた。
「……どうかな? けっこういっぱいいっぱいだけどな」
本気でいっぱいいっぱいである。
ディーアモーネが強いのは知っていたが、本気の強さがこれほどというのは想定外だった。人間を十メートルも吹き飛ばすとか普通考えないだろ。
(さて、どうするか……)
禁呪を使うには少なくとも『ディーアモーネの動きを数秒でいいから止める』、と『触れられる距離まで近づく』、を同時に成さなければならない。
魔法が効かない以上困難すぎる条件だが、達成できなければ俺に勝ち目はない。
ならばやるしかないだろう!
「サンダーストーム!!」
俺はさっきと同じ雷嵐の魔法を放った。攻撃魔法としての意味はないが、目くらましとしての効果があるのは実証済みだ。
「コールミスティック! マインミラージュ!」
すぐに移動しながら霧を発生させる魔法と、自分の分身を無数に作り出す魔法を使う。この分身には存在感があるため、すぐに本物がどれかはわからないはずだ。
「悪あがきね。ウインドブロウ!」
突風の魔法が霧を吹き飛ばし、俺の鏡像の分身七体と俺本体が残される。俺は分身の振りをするため動きを止めていた。
「おもしろい魔法だわ。けれどこうなってしまえば意味はないわね」
ディーアモーネは一番近い分身に近づき、簡単に斬り飛ばす。
忍者マンガみたいに分身を自在に動かせればもっと役立っただろうが、さすがにそこまではムリだった。
それをするには人工知能をプログラミングするくらいの構築が必要で、そこに労力を注ぐくらいなら別の魔法をたくさん考えた方が有意義だったのだ。
「どうするのかしら? このまま自分が斬られるまで固まっている?」
二つ三つと、ディーアモーネは余裕かまして歩いて近寄りつつ分身を潰していく。
一番離れた位置に俺がいることはおそらくディーアモーネも想定しているはずだ。
それでも近くから一体ずつ潰してるのは、この世界の女の誰もが少なからず持っているサディスティックな性質によるものだろう。
「よく我慢するわね。そのプライドだけは認めてあげても良いわ」
認める。俺が求めている結果だが、上からかけられたそんな言葉は俺の求めるものじゃない!
四つ五つと、カウントエンドが近づいてくる。
あと二つ――いや、一つ!
ディーアモーネが六体目を斬り飛ばした瞬間、爆発したように閃光が炸裂した。
「なっ!?」
同時に魔法の触手が無数に伸び、ディーアモーネに絡みつく。俺はその瞬間を逃さず、ディーアモーネに迫った。
光がおさまったとき、魔法の触手に拘束されたディーアモーネの真正面に俺は居た。
「こんな拘束など!」
ディーアモーネが魔法の触手を吹き飛ばそうと動く。おそらく魔法の拘束など数秒ももたないだろうが――
「そんな時間をやるかよ!」
俺は声を上げ、両腕を伸ばす。
そのまま俺の手はディーアモーネの少々慎ましやかな可憐な二つのふくらみを包み込んだ。
「あんんっ!」
ディーアモーネがかわいい声をあげて固まる。……いや、まだ魔法使ってないけど。
ディーアモーネの反応が予想外にかわいかったので俺もいろいろ固まりそうだったが、すぐに気を持ち直して右手からさらに魔法の手を伸ばす。その魔法の手がディーアモーネの心臓を掴んだ。
禁呪発動!
「ハートバインドディマスター!」
心臓に直接、魔法の楔を刻み込む。
体の自由を奪い、主の疵を刻み付ける、まさに禁呪と呼ぶにふさわしい悪魔の魔法だ。恋人でもない女の子の胸掴んじゃってるしな!
禁呪を発動させた瞬間、ディーアモーネはのぼせたように頬を赤らめてぼんやりとしていた。
俺は一瞬躊躇したが、すぐに第二の禁呪を使った。
「ソウルスティール!」
それは相手の体内から精神の核のようなものを吸出し、心を屈服させる魔法。どう考えても人間の屑には使わせちゃダメな魔法だった。
………
お、俺は違うぞ!
その禁呪を使うための方法は……えっと、あー、なんだ……体のある一部を接触させ、相手の体内から心を奪うというイメージをしながら魔法を発動させるという……
………
そうだよ! キスだよ! しかもわりとディープな感じの!
女の子の胸を掴みながらディープキスして心と体の自由を奪う魔法とか使いました!!
……言い訳させてもらうと罪悪感はあります。
けれど、決まった。俺はやってやった!
方法はともかくディーアモーネを支配したのだ。それは強力な力を手に入れたということを意味する。
いっそ今後はディーアモーネの陰で平和な日々を享受するのもいいかもしれない。
今日みたいな綱渡りを続けたら、いずれ落っこちる可能性だってあるのだ。そんな危険を冒すくらいならこの際……
「クリス……何をしてるの?」
この世界の俺の運命ってやつはどこまでも厳しかった。
背後からかけられた言葉。それは俺ができれば知られたくなかった、そんな人の声だった。
振り返ったそこにいたのは、いつもは柔和な笑顔を驚愕のそれに変えたサフィアローザだった。
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