第5話 対決☆ディーアモーネ
陽が沈み、陽が昇る。
新しい一日。その日はきっと俺の運命を変える一日となるだろう。
その日を今日という日にしたのにはもちろん理由がある。今日という日は月に一度行われるアクアレイク王国軍の大規模軍事演習の日であるため、城内の人が最も少なくなる日なのである。
いつもは誰かしら使用している訓練場。今日はがらんとして静かなそこに、俺はディーアモーネを呼び出した。
ディーアモーネはやはりなんの警戒もすることなく一人でやってきた。俺がこれから決闘を申し込むなんて想像もしてないに違いない。
この世界では女にとって男は弱いものであり、真正面からぶつかれば負けようがないという認識だ。男が女に決闘を申し込む可能性を想定しろというのも無理な話だろう。
「クリス、話とはなに? 私も演習の方へ顔を出す予定なの。早くしてくれる?」
いつもは呼びもしないのに現れて振り回していくくせに、勝手な話だ。
(まぁ、それも今日までの話だ。お前は今日から俺に
俺は内心で激しい言葉をぶつけると、拝むように柏手を合わせた。
「『OS』……起動」
鍵言葉を口にし、両手をゆっくり離していくと、まるで俺の体の中から出てくるように一本の杖が現れる。
これもまたこの世界の人間の神秘だ。この世界に暮らす人間の誰もが一つの武器を内在させているのである。
俺のそれが杖だということから察せられるとおり、その武器の形状はその人の性質が現れるものとなる。
この世界の人々はこの武器を自分の意思を表すものと考えており、分身を意味するOther・Selfの頭文字を取って『OS』と呼んでいる。それを使って行われる決闘は精神的にとても重要視されているのだった。
俺は杖を手に取り、ディーアモーネに差し向けると、手袋をぶつけるように言葉を叩きつけた。
「ディーアモーネ・アクアレイク! お前にクリスティアーノ・アクアレイクが決闘を申し込む!」
しん……、と音が消える訓練場。ディーアモーネの顔から一切の表情が消え、冷たい視線が俺を貫く。
「クリス……今のはなんの冗談かしら?」
杖を出した時点で本気だということはわかってるはずだが、それでも確認せずにいられないほどありえないことだったのだろう。
だから俺はきっぱりと言ってやった。
「こんなこと冗談で言うか。とっとと始めるぞ。お前が負けてもすぐにばれないように人が少ない演習の日を選んでやったんだからな!」
俺のセリフが終わった瞬間、ディーアモーネからぶわっと炎にも似た怒りの波動が広がった。
赤い燐光がディーアモーネの体から湯気のように立ち上っている。おそらく『気』だ。
それがこんなにはっきり目に見えるとか……正直言ってちょう怖い。
「クリス……どうやら仕置が必要なようね。二度とそんなことが言えないように躾けてあげるわ」
先ほどの俺と同じように手を合わせ、開く。
「『OS』……起動」
姿を現すのは真っ直ぐにのびた赤く輝く美しい細身の剣。まさにディーアモーネを表しているといっていいOSだった。
「さぁ、いきますわよ?」
「は?」
ディーアモーネが宣言したかと思ったら、その姿が目の前にあった。次の瞬間には俺の体は壁まで吹っ飛んでいた。
「がっっ! ……なんて速さと力だ」
瞬き一回ほどで数メートルの間合いを詰め、十メートル近く吹き飛ばすとか。俺は今、バイクにでもぶつかられたのか!?
俺がディーアモーネの力に驚愕していると、ディーアモーネの方も不思議そうな顔をこちらに向けていた。
「……今のは魔法? 私の剣を弾くなんて、それなりの武器をもって私の前に立ったというわけね。頭がおかしくなってしまったわけではなさそうで安心したわ。だけど……」
戸惑いの表情を消すと、ディーアモーネは剣を構えた。
「それで私と闘えると思うのが浅はかだわ。魔法などで私から勝利を奪えない!」
「そいつはどうかな!」
この国ではあまり攻撃魔法が重要視されていなかった。今見た通り身体能力が高すぎるからだ。魔法を覚えるより、体を鍛えて武器でぽかりとした方が簡単で早くて強いのである。
重要視されていないから、まるで発展していなかった。御門義明の世界でいうところの●ラゴンクエストⅠのレベルだ。
だからこそゲームやマンガの発想を知識として持つ俺がその一端でも実用化できれば、こんなことすらできるのだ。
「サンダーストーム!!」
俺を中心にして訓練場に雷光の嵐が吹き荒れた。
場内全体に広がる回避不能の範囲魔法。やりすぎて黒焦げになってないか心配になってしまうような派手な魔法だが、そこまで殺傷力はない。肌を刺すような痛みと体を麻痺させて自由を奪う程度だが、十分すぎる威力だろう。
雷光の嵐がおさまった時、そこには倒れ伏したディーアモーネが……
「……あれ?」
倒れ伏しているはずのディーアモーネは倒れておらず、普通に立っていた。
立ったまま痺れて動けなくなってる……というわけでもなさそうだ。
「私を飾るにふさわしい派手な魔法ね。それと目くらましにちょうどよさそうだわ。さすがに動けなかったもの」
「う、動けるのか……?」
「何を期待していたのか知らないけど、あてが外れたようね。魔法で私から勝利を奪うのは不可能と言ったでしょう? 私に魔法は効かないのだから」
それは知っている。だが正確には、効きにくい、だ。おそらく『気』が魔法を弾くのである。
だが、それでも今の魔法がまったく効かないというのは想定外だった。
(……いや、そうか、ディーアモーネの『気か』!)
あの目に見えるほどの強い『気』がこっちの想定以上に魔法の威力を減衰させたのだ。
(だからってほぼ無効はないだろ!?)
「万策尽きた様ね。では終わりにしましょうか」
やばい!
「シールド! うが!!」
とっさに張ったシールドが剣を止めたが、別の壁まで吹き飛ばされた。
剣を止められても、このまま何度も壁に叩き付け続けられたらいずれ死んでしまう。
「クリス、抵抗するのをやめなさい。殺したりはしないわ。……けれど、その杖は貰っていくわ。二度とこんなことしないようにね」
第二の自分たるOSを奪われるということは、絶対的な精神的隷属を科せられる。そうなったらもう二度とディーアモーネには逆らえなくなるということだ。
彼女が俺をどう扱うかわからないが、幸せになる未来は想像できなかった。
やはり使うしかない。禁呪『ソウルスティール』と『ハートバインドディマスター』を。
ただ、この二つの魔法は使いどころが難しい。普通の魔法が効かないとなると、使用までもっていくのが困難だった。
だが、どんな困難だろうと、やらないという選択肢はなかった。
だってもう椅子になんてなりたくないし!
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