第16話 恵 3



現在俺は真江さんが座っていた椅子に座り、鈴木さんは真江さんを玄関まで見送りするとことで一緒に付いて行った。



「本当に何もなくて良かった......」



そう呟きながら恵の前髪を軽く撫で、安堵する。

最近勉強続きで疲れが溜まり過ぎたか......?

だとしてもほとんど毎日見ていたんだから、気づくべきだったよな......。



今にして思えば恵に告白されてから3ヶ月も経たない内にえらく近い距離に来たな。

それが俺の中では当たり前で、まるで家族のような感覚に近い存在になっていて、だから恵が倒れたて聞いた時は、怖くて仕方なかった。



恵がいなくなる感覚がして怖かった。

恵の顔が見れなくなるような感じがして怖かった。

恵の手の温もりがするりと抜け落ちそうで怖かった。

恵の声が聞けなくなるように感じて怖くて何度も頭の中で恵の声を木霊させた。



恵は血の繋がりなんてない他人でもあり、家族に近い存在でもある。

正直家族愛と恋人愛の違いなんて分からない。

けど、失ったら悲しいことには違いない。

仕方ない理由とかで離れたくない。




ーーーそういえば恵からいろいろ教わったな。

一緒の大学に通って過ごしたいから勉強を頑張る、好きな人のことは些細なことでも知りたい、料理の味、好きな人に良く見られたいとかーー



まだわからないこともあるけど、少なくとも俺はこの先、恵と一緒に過ごしていきたい、

恵のことをもっと知りたい。

俺は恵が好きなのは間違いない、ただそれがどれの好きか分からないだけだった。

けど結局どの好きの中にも恵は絶対にいる。

ならもう分ける必要なんてない。



なら俺はーーー、










「俺は恵と結婚したい」

「私も智也君と結婚したい」










「起きてたのか、身体の調子はどうだ?」

「大分と楽になったよ、心配かけてごめんね」

「本当にな、気付けなかった俺も悪いけど、次からちゃんと言うだぞ」

「わかった、ありがとうね智也」



........................。



普通に話し進めてはいったけど、始め何て言った......?



「なぁ恵いつから起きてたんだ......?」

「はっきりとは覚えてないけど、智也君の声は聞こえたよ」

「そ、そうか」

「うん」

「なぁ恵、始めに言った言葉、もう一度言ってもらってもいいか?」

「私も智也君と結婚したい」

「................」



聞き間違えじゃあなかった、というか今更ながら、自分がとんでもないことを言ったを理解して恥ずかしいさが頭の中がパンクしそうなほどに込み上げてくる。

自然と出た言葉だけど、改めて考えるといろいろすっ飛ばした言葉だよな。



「あっでも学生の内はお互いの親が許してくれないよね、それだと今は結婚を前提としたお付き合いになるかな?」

「そうなるな、というかそんな簡単に決めていいのか?」

「簡単じゃあないよ、ちゃんと考えた」

「いや即答じゃあなかったか?」

「人によって時間の密度は違うんだよ、私はあの瞬間とんでもない時間に感じた」

「そ、そうか、ならその、これからも......、よ、よろしくお願いします」

「はい!こちらこそ!」



何というか話しがあっという間にまとまった。

まとめた張本人は目をトロンとさせ、頬を真っ赤に染め髪を撫でいた俺の手を掴み、自分の頬に当てうっとりしている。



いや何というか艶かしい、風邪で弱ってるからかいつもより可愛いくて艶かしく、そんな仕草をする恵に見惚れてしまい、心臓の鼓動が煩く身体を鳴り響かせる。



あー煩い。



俺は煩く高鳴る心臓を鎮めるかのように気がついたら塞いでいたーーー。



「とっ.......!とも......や...、く...ん......!」



何でそんな歯切れが悪い発音なんだ?

というか何故唇がこんな柔らかく感じるんだ?


.........うん?唇が柔らかい............?


急激に背中から冷や汗が流れ出すのを感じた。



「............⁉︎、ご、ごめん!」



俺は恵の唇を塞いでいたのだ、

自分の唇で。

俺は咄嗟に顔を上げ唇を離そうとしたが、



「ダメ......!」



後頭部に回された片手によって、もう一度唇と唇を重ね合わすこと。



「うっ...!.......ん.....」



恵の甘い吐息を感じる。

どれくらい経っただろうか、俺は再度ゆっくり顔を上げ、今度拒まれることはなかった。

恵はさっきよりも顔を赤く染め、口から漏れ出す吐息が艶かしさを何倍にも跳ね上げている。



「婚約者なら、こ、これぐらい普通でしょ......!

というか智也君から先にしてキスしてきたんだからね!凄く嬉しかったけど、急だったからびっくりしたんだからね!」

「いや何というか......、恵を見てたら、身体が勝手に動いた」

「うーん......!嬉しくて反論できない......!」



恵はそう呟きながら、顔を背ける。

でもそうか、俺恵の婚約者になったんだな。

どうしよ、今一実感が湧かない......。



「あっ、これからも私の教えは続けてくからね?

その顔だと智也君婚約者になった実感ないんでしょ?」



大事なことを思い出したかのように背けた顔を元に戻す。



「何でわかるんだ?」

「だって今の智也君の顔、あの公園で付き合うことが決まった時と同じ顔してるんだもん」



あの時か、何だか随分昔の出来事に感じるな。

でも確かに心境的には似てるかもな。

けど一つあの時とは絶対に違うとこがある。



「確かにあの時と心境的に似ているかも知れないが、でも俺は今恵が好きなんだぜ?

だから恵が教えてくれるなら、前より積極的な姿勢で教わりに行くよ」



俺はそう言うともう一度恵にキスをした。

さっきに比べたら短いキスだったが、それでも恵は幸せそうに微笑む。



「私も好きだよ智也君、私も頑張って教えていくからね!」

「倒れない程度にな」

「うん!」



すると扉のノック音が聞こえる。



「信楽さんー、恵との口づけは終わりましたー?」


ーーー⁉︎

ちょっ......⁉︎なっ、何で、知っているんだ.......⁉︎


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