第15話 恵 2



「1時間目が終わって教室移動している時に倒れて、保健室に運んで先生に診てもらったら、39.0度の熱がありました。早退することになって、恵のおばさんが急いで来てくれたんですが、またすぐに会社に戻らないといけないとのことで、私も早退して付き添うことになりました」


「恵はお母さんと一緒か?」

「はい、今病院に行ってます」

「場所は?」

「光坂駅近くの病院です」



あそこか、タクシーで行けば20分ちょいだな。急いで近くのタクシー乗り場に移動し、鈴木さんも付いて行くとのことで、共にタクシーに乗り病院へ向かった。

移動中心臓が重く激しく高鳴り、視界がボヤけそうになるが、早く早くと何度も脳髄を響かせるように、それだけしか考えれなくなる。



視線を感じることはあったが、それもほんの一瞬、すぐさま頭の中から消え去る。

病院へ到着し、鈴木さんが受付で話しをした後、すぐさま恵がいる病室へ移動。

そこは個人部屋で中に入ると、点滴に繋がれ未だ静かに眠っている恵の姿があった。



「恵っ......⁉︎」



息を切らした身体の奥からとてもつない恐怖が込み上げる。



「ーーー安心して下さい、ただの風邪だそうです。

一晩入院して、点滴をしていれば明日には良くなるとお医者さんが言ってました」



一瞬どこから聞こえる声かわからなかった。

だがその言葉で少し安心したのか、視界が広がるような感覚になり、周囲を見渡そうしたとこ、その声の出所はすぐにわかった。ベッドの傍パイプ椅子に30歳半ばと思われる1人の女性が座っており、茶髪のショートヘア、目や鼻が恵そっくりで、この人は恵のお母さんなのだろう。



「貴方、智也君よね?」



智也君?恵がいつもそう言ってるのか。



「はい、初めまして信楽智也です。

急に入って騒いでしてしまいすみません」

「いいのよ、こちらこそ心配かけたみたいでごめんなさいね。

さっきも言った通り恵は大丈夫、今は薬が効いて眠っているだけだから」



恵のお母さんは、苦笑しながらも優しい口調で説明してくれる。



「信楽さん、さっきから血の気が引いたような顔になってますよ」



鈴木さんの一言で初めて今の自分の状態に気づく。

少し安心した気持ちにはなっていたが、未だ激しく高鳴る心臓、恵のことでいっぱいになった頭の中、そのことらに気づき、改めて自分を少しずつ落ち着かせていく。

恵のお母さんや鈴木さんは、ホッと肩を落とし安心したような表情になる。

だがあちらも急いで来たのだろう、どこかの工事の作業着を着ていた。

恵のお母さんは俺たちに目線を配ると改まった表情に変える。



「ーーー恵を心配して来てくれてありがとう、綾ちゃんも早退までして来てくれてありがとうね、

改めて私は恵の母で真江(さなえ)と言います」

「いえ......、こちらこそ、急に押しかけてすみません」

「私も連絡せずに押しかけてすみませんでした」

「いいのよ2人とも、後智也君、私のことは気楽に下の名前で呼んでちょうだいね、それと敬語なんて使わずいつも通り話してもらっていいから、私もそのつもりだから」



笑顔でそう話すその顔は、本当に恵そっくりだなと思う。恵から面白いお母さんと聞いていたが、家でもこのように笑うのだろう。



「はい、ありがとうございます」

「だから敬語は使わなくて......、まぁ徐々に慣れていけばいいわ」

それから真江さんは、また夜お父さんと来るからと、俺たちの昼食代を置いて仕事へ戻って行ったーーー

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