第5話借り物競走

 こいつとんでもない猫被りだぞ。

「ああ俺も大丈夫」

 横目で松本を見ると笑顔でこちらを見ていた。

 俺は自分の席に戻り机に突っ伏して眠りについた。


「起きて下さい」

 俺は目を覚ますと松本が目の前にいた。

「ちょっとだけ見直しました」

 それだけを伝えると松本はどこかに消えて行った。

 

 それから月日が流れて体育祭当日を迎えた。

 そろそろ俺の出番が始まるけど面倒くさいからサボろう。

 部室にこもり時間が経つのを待った。


 何分寝てしまったのだろうか。

 体育祭は終わって松本と佐々木はどうなったんだろう。

『平山さんいる?』

 扉が勢いおく松本が慌てながら俺に近付き、手を掴まれどこかに強制連行された。


 着いた場所は今もどうやら行われている体育祭の会場(グラウンド)だ。

「何かあったのか?」

「借り物競走やる人が一人貧血で倒れちゃって、だから代役の人が中々見つからなくて、でも平山さんなら大丈夫かなって」

「すまん松本この件に関しては俺は関係ないから」

「そう…ですよね」

 松本は悲しい表情を見せた。

 この前の一件以来どうもこの表情に俺は弱い。

「やるよ」

「え、いいんですか?」

 松本の表情は一変していい笑顔になった。

「ああ」

「ありがとうございます。早速ですかあそこのスタートラインに並んで下さい」

 俺は身支度を直ぐに済ませスタートラインに立った。


『位置についてよーい』

『ドーン』

 空に向かって放たれたピストルの音とともに皆一斉に走りだした。

 一人除いて。

『平山さん何をやってるんですか。急がないと』

 応援席から平山が観ていて、俺に檄を飛ばしてくる。

 俺はようやくテーブルの上に置かれた箱の中に手を入れてお題の書かれた一枚の紙を取り出した。

 中身を確認すると『大切な存在』と書かれていた。

 えげつないお題が書かれてんなこね借り物競走。

 俺と同じにスタートした奴も一人としてゴールしていない所を見ると、とんでもないお題が書かれているのは明白だろう。

 俺は真っ直ぐにある人物の所に向かった。

 そう、松本美咲の所へ。

「一緒にゴールしてもらってもいいか?」

 俺はぶっきらぼうに手を差し伸べる。

 松本はその手を握り返し俺達は堂々の一着でゴールした。

「借り物競走のお題何て書かれていたんですか?」

「忘れた」

「え、見せて下さい?」

 松本は俺が持っている紙を必死で見ようとするので、急いで俺は口の中に入れ食べた。

「ずるいですよ」

 その後俺の口の中は切れていた。


 そろそろ二人三脚が始まる時間で、俺は不意に松本と佐々木を見ていた。

 何を話しているか分からないが楽しそうに喋っている。

 本当に楽しそうに。

 

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俺が欲しいのは愛だ てるた @teruo0310

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