第17話 クロエとシエル
「おーっとスタートと同時に飛び出た一艘のボートがアクロバティックに宙を舞い、嵐のような攻撃を他の対戦者たちに浴びせる。この攻撃で約3分の1ボートが戦闘不能!!!」
町中に取り付けられたホラ貝から実況のルーシが声が響き渡る。
私達の奇襲はルーシの実況の通り、自分達でも恐ろしくなるほどに上手くハマった。
チラリと後ろを振り返ると、
無数のボートが残骸と化し、ボートから落ちた参加者たちが恨めしそうに水路の水面から顔を出して私達を見ていた。
中には中指を立てている者までいる。
私は罪悪感を振り切るようにアクセルを踏む。
「おお。あのボートは確か私がインタビューした、アリデン・ヴェンタス・アインシュラのキース・レギンス君が乗っているボートです。彼は見事に先制攻撃を成功させて、大口を叩いた者はスタート地点で潰されるというジンクスを乗り越えました」
「ア・サブリデン・ヴェンダス・アインシュラのキース・レギンレイブだ。あの野郎、適当に人の地元と名前を覚えやがって、てか何だよ、そのジンクス。」
ボートのマストを掴んで着水に備えていたキースが叫ぶ。
「あんたの名前なんて今はどうでもいいわよ。ちょっと待ってこっちに何か飛んでくる。マルコ、ボートを右に旋回させて」
右に旋回と言われても私達のボートは空中にいるのだ。
飛んでくる物が何であれ防ぎようがない。
「俺に任せろ、あれは矢だ。マルコお前は前だけ見てろ。俺が剣で打ち返す。」
そう言ってキースは息を深く吸って左手で剣を構える
タイミングを計って薙ぎ払うように剣を横に振る。
キースの剣はタイミングも軌道も完璧に矢を捉えていたが、
彼は一つ大きな誤算をしていた。
威力である。
黒い矢を放ったのは私達人間ではなく、私達より何倍も強靭な肉体を持つダークエルフだった。
矢を弾いたキースの体はマストにぶつかって、どうにかボートの上で踏み留まったが、その衝撃のせいで私達のボート水路上から弾き出されて、街道の上空に放り出される。
「クッソ。落ちるぞ。みんな何かに掴まれ。」
私が叫ぶ
。街道を埋め尽くしていた人々も叫び声を上げながら、私達のボートが作る影から避難する。
ぽっかりとスペースの空いた街道から石畳が顔を出していて、
その石畳が見る見るうちに私達の眼前に迫ってくる。
このまま落ちれば、痛いではすまないだろう。
私の中で最後の防衛本能が働いて瞼を閉じた時、
「怒り狂う風よ 愚か者の横面を殴打せよ」
シエルの詠唱が聞こえた。
【横殴りの風】
船の横腹に突風が吹いて船が水路の上に戻される。
「バシャン。」と言う音がして、私が目を開けると私達のボートは無事着水に成功していた。
私はすぐにアクセルを踏む。
「ヤルジャナイ、チイサナオジョウサン」
聞き覚えのある片言が聞こえて、私は首を左に回す。
ダークエルフが五人乗ったボートが私達と並走していた。
今のところ、私達の前を走るボートは一艘もない。
つまり私達とダークエルフ達は今のところ暫定一位と言うことになる。
私はアクセルを思いっきり踏み込む。
向かい風で揺れる私の赤い髪の向こうには、
エメラルドブルーの運河が1キロ程直線に続いていた。
ダークエルフ達も気になるが、戦闘はキースとシエルに任せるしかなかった。
「ワタシのナマエはクロエ、アナタに一騎打ちをモウシコム」
弓を構えたダークエルフがシエルに向かって叫ぶ。
クロエと名乗ったダークエルフはシエルがお気に入りの女性だった。
「私の名はシエル・レギナ。受けて立つわ。」
シエルはその美しい銀髪をなびかせて、クロエの漆黒の瞳を見据えていた……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます