第10話 水の都 ベラルーシ

一週間余り続いた私達のも、そろそろ終わりを迎えようとしていた。


セイントマーメイド号の甲板から身を乗り出して、私とシエルとキースは目を輝かせながら前方にある島を見ていた。


「わぁーあれが【ベラルーシ】か」シエルが叫ぶ。


ベラルーシはマルタイ最北の島である。

これより北に進めばいよいよ目的地である【タミエル大陸】が私達を待っている。


「よかったな。あと2日もお前らと一緒の船の上だったら、俺はお前らを殺してたぜ」

ドレークがキースと私の肩を叩いて笑う。


この一週間、私達は海賊の船で散々、無銭飲食を続けたのだから殺されてもおかしくないのかもしれない。

私とキースは苦笑いを浮かべる。


「おい。誰かこいつらの船を下ろしてやれ」

ドレークが乗組員に声をかけると、気付いた乗組員が数人、私達の船を甲板まで運んできてくれた。私達がそれに乗り込むと、乗組員達はロープを使って船ごと私達を海面に下ろす。


顔をあげると相変わらず冷めた目をしたドレークが甲板から私達を見下ろしていた。


「いろいろとありがとう」

私達が手を降ると、ドレークは、

「もうヘマやらかすなよ」と言って追い払うように手を振る。

もし私達がドレークの船と出会うことがなかったとしたら、【ベラルーシ】に辿り着くのに1ヶ月はかかったことだろう。いや、もしかしたらクラーケンに海底まで引きずり込まれ、私達の旅は冷たい海の底で終わっていたのかもしれない。


そう思うと、この時ドレークは同郷の先輩として、私達の面倒をよく見てくれたわけだ。


全ては巡り合わせである。

偶然に思えた出会いも、振り返ってみれば神々が仕組んだ出来事のように思えることがある。この出会いが、後に戦友となり共にマルタイのために戦うことになるドレークとの最初の出会いだったのだ。


そんなことを知る由もない、若い私達はまだ見ぬ【ベラルーシ】を前に心を躍らせていた。


「ベラル-シに着いたらまず鍛冶屋に行かないとな。ここならきっといい剣が手に入るぜ」口をにんまりさせたキースが言う。


「何言ってるのよ。キース服屋に行くのが先よ。こんな服装のまま出歩いたら田舎者だって舐められるじゃない」頬を膨らましたシエルが返す。


二人の話を聞きながら私はこの二人は全く何もわかっていないと思う。

マルタイの海にありながら、大陸と近いベラルーシはその地の利を利用し交易で栄えた商業都市である。それ程の都市であるならば、間違いなくあるはずである。私がこの世界に転生してからずっと渇望していたもの、

「本屋だよ。最初に行くのは絶対本屋だ。僕は生まれ変わってから、ずっと本屋を探してたんだぜ」故郷の島にロクな本がなく、15年間フラストレーションが溜まっていた私は気付けばそう叫んでいた。


普段は冷静な私が珍しく取り乱したので二人は目を丸くした。


「お、おう。本屋でいいぜ。そんなに前から行きたかったならなぁ・・シエル?」


「う、うん。生まれ変わってから?生まれてからってことだよね?そんなに前から行きたかったなら、うん、本屋でいいよ」


ベラルーシの港に着くまでの間、幼馴染二人の「こいつ気でも触れたのではないか?」とでもいうような眼差しは居心地が悪かったが、結果的に私の気持ちは伝わったのだから、たまには自己主張もしてみるものである。
















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