第9話 肌の白い女

不本意ながら私は今、海賊船の上にいる。

それも天下の大海賊【ドレーク】の船の上である。

これまでの一連の出来事を幸運と呼んでいいのか、不運と呼んでいいいのか、

私はまだ決めかねているが、冒険家に一番必要なのは「奇運」である。


そういう意味では、この状況は冒険家にとっては幸運な出来事なのかもしれない。

波風の立たない冒険談など、きっと誰にも興味を持たれないのだから。


一連の出来事で落ち込んでいた私はそう思うことで、どうにかモチベーションを取り戻していた。


気力を取り戻した私は積極的に船の中を回って、気になったことを乗組員にいちいち質問した。


多くの乗組員は私のことを面白がって色々と教えてくれたが、中には無口な船員もいて、あんまりしつこく聞くと船から海へ蹴り飛ばされそうになった。

夢中になると見境がなくなるのは私の悪い癖である。


私のそういう行動を一番嫌っていたのがドレークである。

私があまりにしつこく、質問を繰り返すものだからドレークは船長室に閉じこもってしまっていた。


だが夜になって酒を飲みだすと、ドレークの口が軽くなることを知った私は生意気にも、夜な夜な行われる海賊の宴会に参加した。

シエルとキースも興味があったらしく一緒だ。


月の下、甲板の上で飲む酒は最高だった。

キースに至っては、「海賊になるのも悪くないかもな。」と言ってのけるほど、夜の海で飲む酒は最高だった。


「俺はこの時間のために海賊やってるのさ。」

ドレークが私の肩を叩きながら言う。

酒を飲むとドレークは、さっきまで私を避けていたとは思えないほど陽気だった。


私はクラーケンの唐揚げを一口つまみながら、ドレークの機嫌がよくなるように

「わかる気もするね」と言って持っていた酒を一気に喉に流し込んだ。


「おう。マルタイの男はそうじゃないとな。酒に弱い男は人魚にもてないぜ。」

ドレークそう言って豪快に笑う。


「ところでその【水中着】、高そうだね」

私はドレークの上の服を指さして言う。


【水中着】とは海の魔物の鱗で作られた、こちらの世界でいうところの水着のような物である。伸縮性があって水をはじく水中着は海に入る機会の多いマルタイ人にとっては日常的に着る衣類だった。


ちなみに私とシエルとキースもこの水中着を着ている。


服装にこだわりのない私は【鉄砲魚の七分丈の袖】(銀色)のシャツに【炎魚】(赤色)のハーフパンツ。


少し寒がりなキースは【グリーンタートル】(もちろん緑)のハイネックに

【フラットヘッド】(茶色)の七分丈のパンツ。


そしてお洒落に気を遣う年頃のシエルは、【ホワイトコッド】(もちろん白)のへそ出しタンクトップに同じく【ホワイトコッド】のショートパンツである。


そしてドレークのは…

「おお、この水中着の価値がわかるか。こいつは【ダンクレオスステウス】(黒色)っていう、北の海にいる馬鹿でかい魔物の鱗さ。俺自ら仕留めて【水中着】にしてやった」だそうだ。


「北の海と言えば、お前本当にマルタイの民か?北の民みたいにお前の肌は白いじゃねぇか」

ドレークがシエルの白い肌をジロジロ見ながら言う。


ドレークが言っていることは正しかった。シエルは彼女が五才の頃に旅人に連れられて私達の故郷【ア・サブリデン・ヴェンタス・アインシュラ】へとやってきたのだ。

何か深い事情があって島にやってきたことは知っていたが、私達はそれが何故なのかは聞かなかった。


シエルがその話を避けていることに私達は子供の頃から気付いていたからだ。


シエルの表情が一瞬曇ったのに、ドレークが気付いたのかどうかはわからないが、

ドレークは「マルタイの海は好きか?」とシエルに突然訊ねる。


シエルがコクリと頷くと、「ならお前はマルタイの女だ。」と笑った。

そして持っていた酒を口に流し込むと、「知ってるか?大陸では肌が白い女の方がモテるんだぜ。」と付け加えた。


私はドレークが気の遣える男だとは思わないが、少なくとも気のいい奴ではあるようだ。

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