第8話 セイント・マーメイド号
意識を取り戻した時、私はドレークの船【セイント・マーメイド号】の上にいた。
「おーい。大丈夫か」
最初に目を開けた時にドレークの顔が目の前にあって、私はギョッとした。
目覚めに悪人面を見るのは心臓に悪い。
「シエルとキースは?」
私は上半身を起こしてあたりを見渡す。
「二人なら、とっくに元気になってこの船の中を引っかき回してるさ」
ドレークは困った顔で編みこまれた髪の間を掻きながら言う。
「それで?私達はどうなる?奴隷として売られるのか?」
私が真剣な眼差しで言うと、周りの船員達からドッと笑いが起きた。
「ったく。お前らは一体この俺をどんな奴だと思ってるんだよ。お前の連れのキースって野郎は目を覚ますなり、俺達を食べないでくれって叫ぶし、お前は奴隷として売るな、ときた」
「どうやら俺の世間様での評判は相当悪いらしい」
ドレ―クがお手上げだという身振りでそういうとまた船内で笑いが起きる。
「俺達をみくびるな。同郷のクソガキ三人を売って小遣い稼ぎをするような小悪党じゃねぇんだよ。俺達が襲うのは【帝国の軍船か商戦】さ」
「じゃあ、何故僕たちの船を襲ったんだ?」
「おーい。マルコ、目が覚めたのか、こっち来いよ。すげーぞ、クラーケンの群れだ」船首のそばにいたキースが私とドレークの会話に割って入る。
「丁度いい。説明がてらお前にも見せてやる。こっち来い」
そう言ってドレークはキースのいる船首の方へと歩いていく。私もそれに続く。
「マルコ。目を覚ましたのね。良かった」
私に気付いた、シエルが小さな胸を揺らして私に飛びつく。
「シエルの方こそ大丈夫だったかい?」
「ええ。大丈夫よ。それより、ここの人たち思ったより悪い人達じゃないみたい」
「おい、お前ら早く来い」
ドレークが怒鳴って私達を急かす。
私とシエルは船首まで走って海面を見下ろす。
「うわー。気持ち悪い」シエルが叫ぶ。
甲板から海を覗き込むと、無数の巨大なタコの足が船を掴もうと海面から伸びていた。
「この船の下にあと20匹はクラーケンがいる。感謝しろ。お前らがあのまま進んでいたら、こいつらの餌食だったんだぜ」
もしドレークの話が本当なら、背筋の凍る話だった。
「だけど、僕が【ソナー】で海の中を確認した時、クラーケンの群れなんていなかった」
私がそう食い下がるとドレークは編みこんだ髪を揺らして首を横に振る。
「経験不足だな。クラーケンには【擬態】っていう厄介な特技がある。一流の海の男になりたけりゃ、【ソナー】にばかり頼るな。水の微かな振動、水面の揺らめき、もっと海を深く感じて、見えない敵を捕捉しろ」
何か言い返したかったが、ドレークの言っていることは正論だった。
私の航海術はここ異世界では未熟なのだ。
「俺がここに来たのは、ここらの島の漁師連中にこいつらの退治を頼まれたからさ。」
ドレークが拳を天に突きあげると、ドラゴンの形をした水柱が9本立ち昇る。
パチンと指を鳴らすと9匹の水龍達が一斉にクラーケンを襲った。
空高く突き上げられ海面へと叩きつけられるクラーケン達を私は同情の眼差しで見ていた。
海の王ドレークの前ではあのクラーケンでさえ只の哀れなタコである。
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