第3話 風が微笑む島での宴

「タイキの儀」が終わると本格的な宴が始まる。

男達は浜辺にいくつも松明を焚き、女達も浜辺に置かれた長テーブルに次から次へと料理を運んでくる。


ア・サブリデン・ヴェンタス・アインシュラの主な収入源は漁業である。

故に自然とテーブルの上に並ぶ料理は、海の幸が多くなる。私の一番の好物は

フィッシャーマン・バスケットである。


捕れたばかりの海の幸(魚や貝、時には怪魚など)をまとめてフライにして、パナマと呼ばれるこの地方原産の香草をひいた木の籠の中に詰めるこの料理は漁師の籠(フィッシャーマンバスケット)と言う名に相応しい一品である。

もしあなたがこの風が微笑む島に立ち寄ることがあったのなら是非食べてみて欲しい。


本来この宴は今年成人した私達が主役なのだが、ここは酒好きの荒っぽい漁師達の住む島、一度酒を飲み始めると誰が主役も糞もなかった。


皆が酒を飲みながら笑い、語り、互いの漁での武勇伝に花を咲かせていた。


私とシエルとキースは酔っぱらっては絡んでくる大人達と挨拶を交わしながら、

それぞれお目当ての料理を口に入れていく。


「今のうちに食えるだけ食っとかないとな」タイガーフィッシュの姿焼きを貪りながらキースが言う。


「ああ。旅立ちの日は明日だ。ここから一番近い島でも二日はかかるからな」

私が答える。


「2日も海の上なんて、私大丈夫かな?」

シエルが情けない声で言う。


「おい!!お前ら、ちょっとこっちに来い」

聞き馴染みのある声だった。

この品はないが親しみやすそうな声の主は私の父親である。


「お前ら明日、本当にこの島を発つのか?」

親父は持っていたコップに入っていたエールを一気に喉に流し込んで、私を見据える。


私も父を見据えて、「ああ、この世界を回って本を書きたいんだ」と告げる。


「お前達はどうなんだ?」

今度はシエルとキースを父の真っ黒な瞳が見据える。


「俺とマルコは相棒だぜ。俺もマルコと一緒に世界を回るさ」とキース。


「わたしは王都に行く。そこで、本格的な魔法を習うの。王都まではマルコ達と一緒よ」とシエル。


「ならお前らの命運はマルコの航海術にかかっているわけだ。」

父はそう言って、その太い両腕で私の華奢な肩を掴む。


幼馴染の私達3人には、それぞれ得意分野があった。


シエルには魔法の才能。

キースには剣の才能。

私には航海士としての才能があった。


陸では頼もしい二人だが、海に出れば私が二人を守らなければならない。


「いいか、二人を絶対に死なせるんじゃねぇぞ」


親父はこの島の漁師達を束ねる現役の首領だ。

誰よりも海の怖さを知る父の言葉は重く、

私は自分の両肩に二人の親友の命が乗っかっているような感覚を覚えた。


私が深く頷いて、「誰も死なせないさ」と胸を張って答えると、親父は「旅立ちの前に、説教臭くなっちまって悪かったな」と言って「ソニット」を手に取る。


「ソニット」とはギターのような弦楽器で、

私達の島を含む、この温暖な海域(マルタエ地方)の海洋民族の伝統的な楽器だ。


親父は左手で弦を抑え、右手で持った二枚貝をピックのように弾かせて音色を奏で始める。

親父が奏でた歌は航海の無事を祈る歌で、この島に住む者なら知らない者はいなかった。海風に乗った音色に釣られ島の海の民たちは皆一斉に歌い始める。


♪我ら海に呼ばれ 旅に出る

 闇が海を黒く染め

 大蛇のような荒波に飲まれようとも

 我ら人魚に導かれ

 風の微笑みに導かれ

ア・サブリデン・ヴェンタス・アインシュラへと帰還する♪























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