第9話『お茶のつづき』
月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・9『お茶のつづき』
大橋むつお
時 ある日ある時
所 あるところ
人物 赤ずきん マッチ売りの少女 かぐや姫
かぐや: さ、またお茶のつづきをしましょうか(三人、家の中へもどる)赤ちゃんさん、おばあさんお元気?
赤ずきん: うん、元気。あたしが世話をしてるからね。このごろはオオカミも手伝ってくれるし、ばあちゃんもオオカミさんに字の読み書きとか教えていて、今はとってもいい関係だぞ。
かぐや: そうね、誰かの役にたっていると思えることは大切なことね。
マッチ: かぐやさんは、どうして学校へ来ないの?
かぐや: さあ……
赤ずきん: 学校にいじめっ子とか?
かぐや: いいえ……
赤ずきん: 勉強いやとか、つらいとか?
かぐや: さあ……
赤ずきん: 勉強ってつまんないもんだからね。勉強ってもともとは「嫌なのに、無理に努力する」って意味。知ってた?
かぐや: はい、強いて勉めると読みますものね。
マッチ: 赤ちゃん、よく知ってたわね!
赤ずきん: B組の孫悟空が、補習で残された時に、そう言ってボヤいていた。
かぐや: 勉強にかぎらず、人生ってそういう強いて勉めることですものね。それは厭いません。そうではなくて……
赤ずきん: そうではなくて……?
かぐや: さて……わたし、うまく言えなくて。
赤ずきん: ……うまく言えなくてもいいからさ。ちょっとしたことで嫌だなってこととか、変だなってこととか……
かぐや: そうね……学校のかまえ……
赤ずきん: かまえ?
かぐや: ええ、英語でファサードってもうしますの、正面入口のたたずまい。ピロッティーの吹き抜け……開放感というより、ガランドーな感じで……その上にスローガン書いてございますでしょ「みんなかがやけ!!」 みんなかがやいたら……まぶしくってしかたないでしょ……ほほほ。それに「かがやけ!!」というわりに汚れてくすんでますでしょ……その脇には運動部のなんとか大会出場の懸垂幕……
赤ずきん: ああ、あの大売り出しみたいな。
かぐや: ほほほ、昔の源氏や平家のノボリなんかシンプルでよろしゅうございましたよ。赤とか白とか一色……ただそれだけで……でも、あの懸垂幕は、それはそれで無邪気でよいのです……
赤ずきん: それじゃ……
かぐや: 授業中、みなさんが無意識でなさる……指先でシャープペンシルなどをクルクルおまわしになる……
マッチ: ああ、あれわたしも!
かぐや: 最初は、すごい芸だと思ったんですけど……
赤ずきん: ほかに?
かぐや: そうね……携帯の着メロ……らぬきのお言葉……語尾をあげる疑問形、体言止めの言い方……枯れ木のようなお茶髪……ずり落ちたおズボン……子供にはダメと言いながら、平気で街角に立っているお酒やおタバコの自販機……先生が首からぶらさげてらっしゃるわけのわからないカード……どこでもチョキの平家蟹の呪いみたいなニコニコ写真……ほほほ、きりがございませんわねえ。
マッチ: どこでもチョキ?
かぐや: ほら、こういうの……いつもじゃんけんで赤ちゃんさんが二番目にお出しになる。
マッチ: それってピースサインっていうんだよ……って、わかった。いつもわたしがじゃんけんで負けるの!
赤ずきん: いつもパー出すマッチがぬけてんだよ。
マッチ: ぐやじい~!
赤ずきん: ははは……
マッチ: 自分こそプリクラとかでピースサインがくせになってんじゃないよ!
赤ずきん: あたし、ピースサインなんてしないぞ。こうやって、胸の前で手を組んでニコってすんだよ。
マッチ: それって、すっごくブリッコだ。
赤ずきん: なんだよ!?
マッチ: 中味とぜんぜんちがう。不当表示だよお! 消費者センターに言っちゃうからね。
赤ずきん: なんだとお!?
マッチ: なによ!
赤ずきん: やろうってのか!?
マッチ: やるときゃ、やるわよ! いつも負けてばっかじゃないんだかんね!
かぐや: おほほ……
赤ずきん: いくぞ!
マッチ: こっちこそ!
ふたり: さいしょはグー、じゃんけんポン。
マッチ: うう、三回しょうぶ!
赤ずきん: おうよ!
ふたり: じゃんけんポン! じゃんけんポン!
赤ずきん: あはは……
マッチ: おっかしいなあ、どうして負けるかなあ?
赤ずきん: あいかわらずパーしか出さないからだよ。
マッチ: え、じゃんけんポン……ほんとだ?
かぐや: おほほ……おふたりはいいコンビね。
赤ずきん: え?
マッチ: そっかなあ?
かぐや: とてもファンタジーでいらしてよ。(三人のどかに笑う)
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