第8話『エッヘン』


月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・8『エッヘン』


大橋むつお





時   ある日ある時

所   あるところ

人物  赤ずきん マッチ売りの少女 かぐや姫






「エッヘン」とうさぎの声聞こえる


赤ずきん: ほんとだ「エッヘン」て言った。

マッチ: ……で、どなたなんですか、かぐやさん?

かぐや: あの方はイナバの白うさぎさんです。近所の白兎海岸から遊びにくるの。人間の女の子のかっこうをなさってる時もあるわ。

マッチ: イナバの白うさぎって、女の子だったんだ!?

赤ずきん: セーラームーン(^▽^)/!?

マッチ : 古いんじゃ! で、イナバの白うさぎって?(ふたり、ずっこける)

赤ずきん: なんだ知らねえのかよ?

マッチ: 赤ちゃんは知ってんの?

赤ずきん: アキバの地下アイドかなんかじゃないの(^▽^)?

かぐや: ううん。沖の島からね、サメさんたちをだまして並ばせてね、その背中をピョンピョン渡ってイナバ、って、鳥取県の東のほうにきたうさぎさん。

マッチ: 好奇心つよいのね。

かぐや: で、だまされたったってわかったサメさんたちに身ぐるみはがされちゃって。

赤ずきん: やられちゃったの!?

マッチ: ……集団暴行!?

かぐや: そういう表現はヤラシイ想像をさせてしまうわ。ほらあの方なんて、身をのりだしていらっしゃいますわ。

マッチ: 赤ちゃんの目もヤラシイ~。

赤ずきん: マッチの四文字熟語だって三流新聞の見出しみたいだろうが!

かぐや: シバキたおされておしまいになっただけ。ジェンダーフリーのおしおき。そこになんともいえないくやしさを感じて泣いてらっしゃったの。由緒正しいうさぎさんだから。

マッチ: あ、サンタクロース!

かぐや: いいえ、あの方はオオクニヌシノミコトさま。

マッチ: オオクニヌシ?

かぐや: そのとき、うさぎさんをおたすけになったえらい神さま。

マッチ: へえ……

赤ずきん: そうなんだ……

かぐや: こんにちは! お仕事帰りですか?(何やら、声にならぬ声がする)あ、研修中ですか。こちらが赤ずきんちゃんさんと、マッチ売りの少女さん。(二人、ペコリと頭を下げる) 今日は……? ああ、松江の水郷祭に花火をご覧に。よろしゅうございますわねえ。わたしも行きたいなあ……小泉さんによろしくね。

赤ずきん: 元総理大臣の息子?

かぐや: ううん、小泉八雲さん。耳なし芳一とかお書きになった。ラフカディオ・ハーンともおっしゃるの。

赤ずきん: ああ……

マッチ: でも、どうしてサンタさんみたいなの?

かぐや: むかしは羽振りがよかったんだけどね、ここんとこ、ずっとリストラされてらっしゃるの。自前の袋をお持ちなので、今度サンタクロースのアルバイトをなさるのよ。

マッチ: アルバイト!?

赤ずきん: そういや。星の王子さまなんかも、近ごろ宅配便のアルバイトしてるらしい ね。ほら、あの流れ星(キンキラキーンと星の流れる音)……あれ、星の王子さまだ。

マッチ: みんな生活苦しいのかな……

かぐや: 星の王子さまは、著作権がきれたんで趣味でやってらしゃるの。でもオオクニヌシさんはやっと教科書にのりはじめたばかりだから。あなたは?

マッチ: わたし?

かぐや: マッチ売り。

赤ずきん: そうだよ。必要ないバイトならよした方がいいよ。友だちと約束して遅刻することもないだろ。 

マッチ: でも、マッチ売りをしていないマッチ売りの少女なんて……ただの漢字二文字の「少女」になってしまう。

かぐや: ほほほ……

マッチ: ね、そうでしょ。

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