第10話『トカトントン』


月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・10『トカトントン』


大橋むつお





時   ある日ある時

所   あるところ

人物  赤ずきん マッチ売りの少女 かぐや姫




マッチ:で、なにしに来たんだっけ?

赤ずきん: えと……かぐやさんが、やだとか変だとか思うこと聞いてたんだよ。

かぐや: そうでございましたわね。

赤ずきん: そうだよ、携帯の着メロとか、ニコニコ写真とか。

かぐや: ええ。でも……これかなって思って口にすると、スルッとそこからすりぬけてしまって……けっきょく、どうでもいいことなんですよね……そういうことは。

赤ずきん: でも、そういうことがいっぱい重なってさ……

かぐや: ……先日。

赤ずきん: ちょっと前?

かぐや: カチカチ山のタヌキさんが、お亡くなりになりましたでしょ……

マッチ: うさぎさんが沈めちゃったんだよね。泥舟に乗せて!

赤ずきん: あのうさぎって、さっきのイナバの白うさぎと関係あんの?

かぐや: いとこ同士でらっしゃいますの。

マッチ: やっぱ女の子?

かぐや: ええ。で、たぬきさんは気のいいおじさま。 

マッチ: なんかスキャンダラスなおはなしね!?

赤ずきん: なんか、意味深な事情があるんでしょ?

かぐや: おふたりの最後の会話……

赤ずきん: どんな?

かぐや: おぼれながら、たぬきのおじさまは、こう叫ばれました「惚れたが悪いか!?」。で、うさぎさんは、お持ちになったカイでおぼれるたぬきさんに最後の一撃をくらわせになって、ぽつんと一言「ほ、ひどい汗……」。

マッチ: う~ん……

赤ずきん: そうなんだ……

かぐや: で、校長先生が全校集会で「命の大切さ」って、お話なさってましたでしょ。

赤ずきん: 人の命は山よりも重いんだよ君たち……校長のきまり文句。

かぐや: 重くて軽いお話。

赤ずきん: え……?

かぐや: あのお言葉正確には「命は山よりも重く。鴻毛より軽し」と申しますの。下半分省略。幽霊さんみたいなお言葉。

赤ずきん: あたし、そこんとこ居眠りしてて聞いてない。

かぐや: たぬきさんとうさぎさんは、その最後の一言。それで不滅の存在になって生き続けてらっしゃると思ってますのよ……トカトントン……

マッチ: あ、あの時の金槌の音。

かぐや: あら、おぼえていたの、あの金槌の音!?

マッチ: うん、とびらの修理にきてた大工さん。

赤ずきん: そうだった?

マッチ: 校長先生が「エヘン!」というと、トカトントン。「……人の命というものは」トカトントン。「お互い命を大切に」トカトントン。

かぐや: あの大工さん、あれが最後のお仕事でしたのよ。ガンで入院されるんで、最後のお仕事きっちりしようって心をこめて……

マッチ: トカトントン……おかげで、校長先生のお話ひとつもおぼえていない。

赤ずきん: 金槌がなくってもおぼえていないわよ。

マッチ: 失礼ね。

赤ずきん: どっちに? 

マッチ: もちろん……

かぐや: 言わぬが花。

マッチ: 花よりダンゴ!

かぐや: おほほほ……

赤ずきん: あははは……あたし、今、校長先生にはじめて同情した。

マッチ: もう……!

赤ずきん: また牛だ!

マッチ: もう!!

赤ずきん: また、じゃんけんになるぞ。

かぐや: よしましょう、マッチさんはとても気持ちのきれいな人なんですから。

マッチ: ね、今から学校に行ってみない?

二人: え!?

マッチ: 放課後だから、もう誰もいないし……あの……大工さんのなおしたとびらとか見に行かない? きっと学ぶべきものがいっぱいある……かも。

赤ずきん: そ、そうだよかぐや。マッチもたまにはいいこと言うじゃん。

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