第6話『月の砂漠』


月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・6『月の砂漠』



時   ある日ある時

所   あるところ

人物  赤ずきん マッチ売りの少女 かぐや姫




赤ずきん: 男は女を愛したらオオカミになるっていうぞ。

かぐや: あの方……オオカミになりながら涙をためていらっしゃった。とても悲しそうに、とてもせつなそうに。だからわたし、そっとハンカチを渡してあげたの。あの方、ハンカチをにぎりしめ、大つぶの涙を流しながら、じっとわたしの目を見つめ……ポツンと一言……

マッチ: おいしそうだ……


赤ずきん: ズコ!

かぐや: ほほほ……

赤ずきん: せっかく真面目に聞いてんのに、まぜっかえすな。

かぐや: まぜっかえさないと焦げついちゃうでしょ、鍋の底とか心の底に。わたし好きよ、そういうの。

マッチ: へへへ

赤ずきん: それで?

かぐや: それでオオカミ男さんは大つぶのよだれをたらし……あら、うつっちゃった。


三人、のどかに笑う。


赤ずきん: 大つぶの涙を流しながら……

かぐや: 大つぶの涙を流しながら……ぼくと同じ目だ。

 

「月の沙漠」のオルゴール聞こえる。


かぐや: 唐突だけど「月の沙漠」を思ったわ。(歌う)金と銀との鞍置いて、ふたつ並んでゆきました……そうしたら、オオカミ男さんも、同じメロディを口ずさんでいた……ね、外に出てみましょうか?

マッチ: う、うん。


三人外に出る。空に月が出ている。


マッチ: うわあ……!

赤ずきん: なに、これ?

マッチ: 砂漠?

かぐや: ううん、鳥取砂丘。月までもどる力は、わたしにも、この家にもない。だから時々ここに来てなつかしんでるの。今のわたしたちの話で、この家がなつかしがったのね。金八郎先生が来たわけじゃないわよ。

マッチ: 砂ばっかりで、砂漠みたい……

かぐや: 「月の沙漠」って、千葉県の御宿海岸がモデルなんだけど。わたしはこの鳥取砂丘のイメージなのよね……

赤ずきん: どうして?

かぐや: それはね……金八郎先生がそう教えてくださったから。

赤ずきん: 金八郎まちがったこと教えたんだ。

マッチ: いけないんだ~。金八郎先生って、かりにも国語の先生だよ。

かぐや: ううん、まちがってらっしゃらないわ。

赤ずきん: どうして?

かぐや: あの先生はご自分の感動を正しく教えてくださったわ。

赤ずきん: でも、まちがってんじゃ、しょうがないじゃん。

マッチ: うんうん。

かぐや: あのね、わたしこう思いますの。すみからすみまで正確な授業でも、感動のない授業なら、教えたことにならないって。

赤ずきん: はあ……

かぐや: 金八郎先生は授業を脱線して「月の沙漠」のお話をなさった。

赤ずきん: 知らないぞ、その話。

マッチ: わたしもよ。

かぐや: あの日は、お二人とも改訂版が出るんでお休みになってましたよ。

赤ずきん: あはは。あたしたちって、売れっ子だから(^^♪

マッチ: うふふ。

かぐや: おしいことをなさいましたわね。それは、それは熱く語ってくださいましてよ。

マッチ: そうなの?

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