第2話『そのかぐやさんになんの用?』


月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・2『そのかぐやさんになんの用?』



大橋むつお






時   ある日ある時

所   あるところ

人物  赤ずきん マッチ売りの少女 かぐや姫




赤ずきん: で、そのかぐやさんになんの用?

マッチ: ようす見にいこうかな……とか思ってえ。

赤ずきん: ……ようすか。

マッチ: わたしも、どっちかっていうと、不登校になりやすい方でしょ。だから人ごとと思えなくて……

赤ずきん: ……一人では行く勇気がない?

マッチ: うん。ついてきてくれないかなあ……赤ずきんちゃんだったら、オオカミさんのいる森でも平気で行けちゃったりするでしょ。メルヘン界一番のかくれマッチョだもん。

赤ずきん: わたしは和田アキ子か!?

マッチ: ……で、ついてきてくれないかな? 手作りケーキとかも持ってきたんだ。

赤ずきん: あたしは食わないぞ。

マッチ: ええ!? 赤ずきんちゃんにも食べてもらおうと思って、赤いイチゴクリームいっぱい使ってつくったのに……

赤ずきん: 泣くな! ちょっとだけなら食ってやるからさ。

マッチ: ありがとう、やっぱり赤ずきんちゃんだ。根は優しいんだよね。やっぱり赤ずきんちゃんにお願いしてよかった。赤ずきんちゃんだったら、きっときいてくれると思っていたんだ。わたし昔から赤ずきんちゃんのこと大好きだったから。

赤ずきん: あのな、とってもうれしいんだよ。頼りにしてくれて。そいで、不登校のかぐや姫に気を配ってくれるのも嬉しいよ。クラスで、かぐやのこと気にかけてんの、マッチ売りの少女、おまえだけだもんな。

マッチ: ありがとう、赤ずきんちゃん……

赤ずきん: その「赤ずきんちゃん」てのなんとかならないか。

マッチ: え……?

赤ずきん: おまえのアクセントだと、赤どきんちゃんて聞こえるんだよ。あたし、アンパンマンのキャラクターじゃないんだからな。

マッチ: ……わたし、地方の出身だから、まだアクセントおかしいのね……

赤ずきん: 傷つくなよ、こんなことで。それにさ、少し長いんだよ、微妙に「赤ずきんちゃん」てのは。もっと気安く、フランクにさ……

マッチ: じゃ……赤ちゃん。

赤ずきん: ズコ……!

マッチ: だめ?

赤ずきん: ま、いいか、赤どきんちゃんより……

マッチ: あの……わたしの呼び方も……「おまえ」って呼ばれると、ちょっと言葉がきついの……

赤ずきん: かもな、いちいち「マッチ売りの少女」ってのも長いしな……じゃ、マッチだ。どうだ、かっこいいだろ?

マッチ: マッチ……うん。気にいっちゃった。さすが生徒会長!

赤ずきん: じゃ、そろそろ行くぞ。

マッチ: うん。あ、こっち。こっちだよ……

赤ずきん: たしか月ヶ丘の方だよな。

マッチ: うん、こっちの路地から行くんだ。

赤ずきん: 行ったことあんの?

マッチ: おう、担任の先生と。

赤ずきん: 金八郎と?

マッチ: うん、家の前まで行ったんだけど……

赤ずきん: 閉じこもって出てこなかった……とか。

マッチ: うん……二回行ったけど、二回とも留守だった。

赤ずきん: そっか、留守じゃしょうがないわね。

マッチ: ……っていうか、家がなかった。

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