月に吠える 千年少女かぐや

武者走走九郎or大橋むつお

第1話『遅刻したマッチ売りの少女』


月にほえる 千年少女かぐや


大橋むつお


時   ある日ある時

所   あるところ

人物  赤ずきん マッチ売りの少女 かぐや姫




                                     ジーコ……ジーコ……とネジを巻く音がして、オルゴールのメロディーが拡がる。曲目は「月の沙漠」 幕が開く。舞台には何もない。赤ずきんが手に四角いバスケットを持ち、ニコニコとオルゴールの音色に合わせてクルクルとまわっている。オルゴールのネジがゆるんで、ややななめの角度(少し後ろ向き)でとまる。キッと顔だけ正面に向ける……その顔は、もう笑ってはいない。


赤ずきん: ……遅い!


上手から、マッチ売りの少女、マッチとケーキの入った丸っこいバスケットを手に駆けてくる。


マッチ: ごめん、ちょっと遅くなっちゃった。ごめん、ごめんね。

赤ずきん: 何してたんだ。あたし、ばあちゃんの世話でいそがしいんだからね。だいいち時間指定したのはそっちの方だろが!

マッチ: ごめんね。バイト遅くなっちゃって、相方の子が急に辞めちゃったもんだから、ちょっと大変だったの。

赤ずきん: まだマッチ売りのバイトやってんのか?

マッチ: ……うん……ごめん。

赤ずきん: なにかほかにあるだろ。もっと手軽で時給のいいやつ。

マッチ: そんな……

赤ずきん: オッサン相手にあやしげなことをしろって言わないけどさ。マックとかケンタとファミマとか普通のがあるだろが。 

マッチ: わたし、これしか能がないから……ごめんね。

赤ずきん: ……それって、あんたのトレードマークでもあるんだろうけど……

マッチ: ごめん……

赤ずきん: 何度もごめんていうのはよしな、もう十回くらい言ってるぞ。

マッチ: うそ……七回だよ。

赤ずきん: おまえのそーいうところって、しめ殺したくなる!

マッチ: ごめん……

赤ずきん: で……なんなんだ、用は?

マッチ: あの……先月転校してきた……

赤ずきん: え?

マッチ: あんまし学校に来ない子。

赤ずきん: あ、ああ、かぐや姫!

マッチ: すごい、名前憶えてんだ!

赤ずきん: あたりまえだろ。

マッチ: わたしなんか、思い出すのに商店街一周しちゃったよ。

赤ずきん: なに、それ?

マッチ: ほんやさん、そばやさん、やおやさん、さかなやさん、くぎやさん、かぎやさん、……かぐやさん。

赤ずきん: しめ殺したろか!

マッチ: ご、ごめん!

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