第22話 キスキスキス
「俺と――禁断のキスをしないか敦盛……」
「顎をクイッとすんじゃねェ!! つーかテメェら助けろォ!! 女子共はチャンスだとクラスで二番目ぐらいのイケメンとのキスするチャンスだぞ!!」
「ぷぷぷっ、ざまぁないわねあっくん! ちなみに一番のイケメンは?」
「勿論俺ええええええええ、って会話してる場合じゃねえええええ!! 力強ッ!? 押し負けるッ!?」
「悪い子だな、――俺のキスを前に浮気か?」
「テメェ絶対後で後悔すんだからなッ!」
状況は実に危機的だった、キスしようと強引に迫る竜胆。
彼の力は強く、顔面を両手で押し返していた筈がいつの間にやら恋人つなぎ状態に。
今は敦盛が体を大きく反らして辛うじて防いでいるが、唇がくっつくには時間の問題に思えた。
「おいどうする?」「いや逃げるの一択だべ」「すまんな敦盛、オレらは自分の貞操の方が大切なんだ」「……男同士の生キス、撮影したら需要あるか?」
「いや何テメェら廊下に逃げてんだッ、適応力高過ぎじゃね!?」
「ごめん私カレ居るから」「二次元に命の捧げたの……」「入屋見君とのキスは福寿さんに悪いから」「そうそう、早乙女くんに悪いから……」
「全滅ッ!? はッ、意外と人気ねーなテメェだから俺に唇は勘弁してくれねぇかというかよく考えたら奏さんにキスしてたよなぶっ殺す!!」
「ま、ガンバんなさいあっくん。アタシは今から廊下で洗脳君を修理するから」
「はァッ!? テメ何言っ――――いつの間にか奏さん以外居ないッ!? 円!? 円!? 親友の大ピンチだぜ助けてくれよッ!!」
無情なるかな、クラスメイト達はキスの余韻に浸る奏を残し全員廊下に退避。
ご丁寧に、ガチャっ、と鍵の閉まる音が。
「お労しや敦盛……折角だから今日は人生五十年していいぞ、オレは見守ってる。いやー、男のキス魔相手とかやってられないでしょ」
「テンメェええええええええええええええ!! 覚えておけよッ!」
「さぁ、一つになろうぜ敦盛…………」
「何かッ、何か無いのか助かる方法はッ!!」
かくなる上は竜胆を殴り倒してでも解決する、そう即断即決した敦盛だが。
ここで問題が一つ、――身体能力は竜胆の方が上なのだ。
ついでに言えば、喧嘩の腕でも竜胆方が上。
(考えろ、冷静に考えろ俺ッ!! このバカはキスしたい、無力化すれば後はなんとかなるんだろが……ッ)
変な方向に効果は出たがこの手の場合、効果は長時間持続しないのが彼女の発明だ。
――長い年月を経て、その倫理観を植え付ける事に成功したというのが正しい。
(瑠璃姫が直すのを待つか? ――いや、それはダメだ例によって今回もこんな発明は世に広められるもんかッ!!)
壊す、今すぐドアを蹴破って壊す。
その為に必要な隙、竜胆を無力化する手段。
心当たりはある、……必要なのは敦盛の覚悟。
(神よッ、どうして試練を与えるのですかッ!!)
あまりにも、そう、あまりにも(敦盛個人にとって)非道で外道な。
俗に言う、脳が破壊されてしまう的な。
傍目から見れば、丸く収まっているのでは的な感想が浮かぶのが(敦盛の)涙を誘う所である。
(――――だが、やるしかないッ!! 生き残る為にッ!! つーか瑠璃姫ェ!! テメーをお尻ぺんぺん百叩きの刑に処すまではッ!! 俺は何でもするッ!!)
「ククク、どうした敦盛……黙り込んで恥ずかしいのか?」
「ウルセエ……俺の覚悟を見せてやるぜッ!! 秘技奏さんバリアー!!」
「ふぇっ!? え? ええっ!?」
「カモン奏っ、クレイジーに抱いてやるぜ!!」
「~~~~~~~っ!? な、何コレっ!?」
「苦渋の決断ですッ、分かって貰えますねッ!!」
説明しよう、奏バリアーとはいつの間にか背後に奏が居た事を利用して竜胆の矛先を奏に返る技である。
なお、二人のキスで敦盛の心は死ぬ。
「ん、……ん、ん……」
「奏……愛してる、奏…………」
「お、俺はなんという事をしてしまったんだ…………ッ!!」
目の前の光景から目を背ける敦盛、――心の何処かで安堵している自分が心底嫌で。
だが、今はそんな事に構ってる暇は無い。
彼は扉に向けて全力ダッシュ、そのままタックルでぶつかり。
「オラァ!! 顔貸せや円ッ!! 女子は瑠璃姫見張っとけ男子は扉を死守しろッ!!」
「なんでオレっ!? や、ヤメロォ!! オレに手を出したら火澄ちゃんが――――っ、ま、まさか火澄ちゃんを召喚したな!?」
「ウケケケケッ、今頃気づいたかッ!! 今この瞬間にもう向かってる筈だッ!!」
「そんないつの間に!?」
円を羽交い締めにして、体格差で無理矢理押し切って竜胆へと向かう敦盛。
「良いことを教えてやろう円ッ!! テメーのカノジョから俺は日頃の言動を報告するバイトを受けているッ!!」
「聞いてないッ!? オレ聞いてないッ!!」
叫ぶ円、だが敦盛の暴露に廊下のクラスメイトは。
「あ。私も」「俺も」「僕も」「というか樹野以外の全員がこの話されてるんだよなぁ」「あん時は怖かったなぁ」「ウチの美少女四天王の上の魔王に位置する人だからな」
「何やってるの火澄ちゃんっ!? オレってそんなに信用ないっ!? というかそれ以上近づけるなぁ!!」
「――――ほう、感心するぜ敦盛。今度は円か、一度男の娘とキスして見たかったんだ」
「のわああああああああああっ! 誰か敦盛と竜胆を止めろおおおおおおお!! オレがやられたら次はお前達を犠牲にするぞコイツらは!! 今オレを助けないと――」
「フハハハハ!! 俺を見捨てた罰だッ!! さぁ竜胆にキスしてもらえ!!」
「親友よ……こんな事になるなんてな。――でも後悔はさせない、一緒に禁断の果実を食べようぜ」
「――――はぅあっ!? だ、ダメよ竜胆! キスすすなら私だけに」
「倉美帝高校一の美少年っ! 最大のピンチ!! オレの美貌が悪いんだねっ!? このオレがこんな蠱惑的な美貌をしているからっ! ――美しさは罪っ!!」
「結構余裕あるなお前、あと三十センチぐらいだが大丈夫か?」
「大丈夫な訳ないだろバカ盛!!」
男でもゾクっとするような流し目で、竜胆は右手で円の顔を撫で。
ゆっくりと、唇を近づける。
円の顔が盛大にひきつり、その惨劇に敦盛が目を反らした瞬間であった。
「――――その汚らしい手を離しなさい、下郎」
誰よりも冷ややかで、しかし怒気のこもった声が響きわたる。
カツカツカツ、という足音が何故か、ドシンドシンドシン、と地響きの様に聞こえて。
…………伊神火澄(いかみひずみ)
純日本人ではあるが、突然変異で赤い髪と琥珀色の瞳を持つ、夕闇の化身のような美少女。
その神秘的かつ、荘厳さまで携える美貌とスタイルは他の追随を許さず。
なお余談として、リンゴを右手一つで握りつぶせる腕力の持ち主であり。
卑屈な人物、ドロドロとした暗い感情のを尊ぶ重度の中二病患者であり。
全てを円に優先する、重い愛の持ち主でもあって。
(間に合った……僥倖ッ、これは奇跡ッ!! 二度と無い奇跡ッ!!)
敦盛はそっと円から離れると、即座に彼女に土下座。
校内カーストがあるとすれば、物理と美貌共にトップが火澄である。
そして、睨みつけられた竜胆は。
「…………あ、あわ、あわわわわわっ、ち、違っ、伊神先輩これは誤解っ、そう誤解で――――? お、俺はなんでこんな事をッ!?」
「へぇ、誤解? どうなの下僕」
「はッ! 原因は竜胆ではありませんが、犯行に及んだのは竜胆ですッ!!」
「テメェ敦盛っ! 円を盾にしたのはテメェだろうが!!」
「――下僕?」
「元凶である瑠璃姫は俺がお仕置きしておきますッ!! んでもって駅前の恋人限定スイーツセットを予約しておくので多めに見てくださいッ!! 伊神先輩を呼ばなければ遅かれ早かれ円は犠牲になっていたのでッ!! ちょっとだけっ、ちょっとだけ早まっただけですッ!!」
「円?」
「…………敦盛は拳骨一発で」
「テメェ後で覚えておけよ円ッ!! 先に見捨てたのはテメーだろうがッ!!」
「ふふっ、円は悪くないわ……そう、悪いのは入屋見、下僕、そして溝隠。そうね?」
「俺を外してくれると助かります先輩ッ!!」
「拳骨二発」
「増えたッ!?」
「――――円に手を出した罪、例え未遂といえど覚悟しなさい!!」
その後、竜胆の悲鳴が。
続いて敦盛の悲鳴。
そして瑠璃姫は装置の改良とその引き渡しを約束され。
今日も彼女の発明は闇に葬られ、ついでに帰宅後に百叩きでケツが赤くなったのであった。
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