第21話 洗脳装置
昼休み直前の少し浮ついた空気、誰も彼もが昼食に思いを馳せ気もそぞろ。
授業をしている担任、脇部も懐かしそうに苦笑して。
そんな中、瑠璃姫は密かに焦っていた。
(四角関係になるのは予想してたわ、――でも)
先ず最初に予想が外れたのは敦盛、結果オーライとはいえ彼が二兎を追うのは想定外であった。
次に竜胆、敦盛と奏という天秤では彼女に傾く……それは間違ってない筈だったのに。
(本気? 本気であっくんの恋人になろうとしているワケ? 男同士で? どっちもその気は無いのに?)
これが奏を敦盛から守るフェイクだったらどんなにいいか、瑠璃姫が見る限り自分を犠牲に丸く収める気迫である。
(奏もさぁ……、いや実際にあっくんと恋人になっても困るんだけど)
彼女に関しては、完全に読み間違えた。
あくまで竜胆目当てを崩さない、残酷にもフった敦盛に協力を求める強かさ。
だが今の彼女は……。
(なんであっくんを睨んでるワケっ!? もうちょっと竜胆を信用するか、これを切っ掛けに竜胆を押し倒すぐらいのガッツを見せないよっ!)
そう、奏は一昨日の騒動からずっと動揺しっぱなしである。
ウルウルと竜胆を見つめたと思えば、敦盛を殺意の光に満ちた目で睨み、はたまた縋るような視線を二人へと。
行動を、何一つ具体的に起こさないのだ。
(それに比べてコイツは……、いやちょっとは空気読むとか奏のしおらしさを学ぶとかしなさいよっ!!)
瑠璃姫は隣の敦盛を、そっと睨む。
あのベランダでの会話以降、食事の質はグレードアップするわ。
身なりには、指摘せずとも気を使うようになるわ。
遂には、二人っきりになると歯の浮くような口説き文句を。
(うざったいったらありゃしないっ!! なんでアタシばっかりアイツのターゲットになってんのよ!! ちょとは苦労しなさいったらっ!!)
という訳で。
昼休みに入ったら開口一番、瑠璃姫は敦盛達を集める。
「不公平だと思うの」
「いきなり何だ瑠璃姫、何が不満なんだ? ――さ、俺に何でも言ってくれお前の為なら今この場で全裸になろうッ!!」
「このバカはともかく、言ってくれれば力になるぜ瑠璃姫さん!!」
「と言ってるバカ共は置いておいて、オレは分かるよ溝隠さん。――今の四人の関係の事だね?」
「私たちの関係?」
首を傾げる奏に、同じく不思議そうにする竜胆。
敦盛はと言えば、流石に心当たりがあるのか視線を反らして。
「まぁ食べながらで良いから聞いて、先ずは状況の整理からしようと思うの」
「瑠璃姫さん? 俺にはまったく分からないんだが?」
「いやお前は言われなくても分かってろと当事者ッ!?」
「はいそこのバカ、諸悪の根元であるアンタには発言権はありませーん」
「うーん、ごめん敦盛。オレはフォロー出来ないぜ」
「わざわざ言うなッ!! つか瑠璃姫ッ、テメーも大胆だなよくも真正面から言いだしたよなッ!? メシ食いながらする話かッ!?」
「だからアンタはバカなのよ、こういう話は早めに正面からする方が効率良いでしょうが」
「瑠璃ちゃん? もう少し具体的にお願い出来るかしら?」
「奏、アンタはアンタで理解できないフリしないの。――アタシ達の四角関係の事よ」
あまりに率直に出された言葉に、円以外は食事をする手が止まる。
然もあらん、本当に食べながらする話ではない。
一歩間違えれば、刺した刺されたの修羅場に発展する可能性がある事柄を食べながら話す事だろうか。
「…………――うし、俺は覚悟を決めたぞ」
「アタシ、アンタのそういう所は尊敬してるけどすっごく嫌い」
「何故ッ!?」
「つまり、俺と敦盛のどっちが受けか攻めか?」
「ううっ、正気に戻って竜胆!! 私は嫉妬のあまり早乙女君の大事なところを潰してしまうわよっ!!」
「なんで俺ッ!? 犠牲になるの俺なのッ!?」
「…………グッバイ敦盛、俺は男として女の子になったお前の責任を取ってやるから」
「潰されるの前提で話すなッ!? 助けて瑠璃姫、大切な幼馴染みのピンチだッ!!」
「はいはい、潰すときは先に言いなさい。アタシが前もって右側を潰しておくから」
「味方が居ないッ!?」
「大丈夫さ敦盛、――その時はオレが女装の仕方を教えてあげるよ」
「マジで味方が居ねェッ!?」
逃げるべきか、それとも反撃するべきか迷う敦盛。
だが答えを出す前に、瑠璃姫は鞄から奇妙な機械を取り出して。
「そこでコレよっ!! どんな相手の本心だって言わせちゃう、ドキドキ本音告白洗脳マシーン君!!」
「俺はクールに去「お願い竜胆」「逃げるな敦盛」チクショウ離せえええええええええッ、テメーらコイツの発明品がどんなモノか一応知ってるだろうがッ!!」
「――――ごくり、ねぇ瑠璃ちゃん。これって本当に効果があるの? なんでも命令聞かせられる?」
「まだ試作段階だから、心の内側を告白するぐらいね。まぁ実験するのはコレが初めてだから効果は保証しないけど」
「ヤメロォ、悪魔の誘いに乗るな奏さんッ!! その先は地獄だぞッ!! どうせ爆発するか変な効果がでるに決まってるッ!!」
「なるほど、興味深いね。――竜胆試してみる?」
「いやここは適任が居るんじゃないか? なぁ敦盛?」
「それもそうだね、頑張って敦盛!」
「成功を祈っているわ早乙女君……!!」
「だ、そうだけどあっくん? アタシが言いたいことは言わなくても分かってるわよね?」
「うぐぐッ、どうしてこうなったッ!!」
敦盛へ徐々に近づく洗脳装置、それを手に持つ瑠璃姫はニヤニヤと彼をあざ笑い。
(コイツゥ……!! ペットだから断れないってか?ふざけんなッ! しかも奏さんは奏さんで竜胆の事しか考えてねぇし!!)
とはいえ奏に実験台になれとは言えない、惚れた弱みというヤツだ。
故に彼が取る行動とは――。
「チェストオオオオオオオオッ!! テメーが犠牲になれ瑠璃姫ェッ!!」
「危ない瑠璃姫さ――」
あ、と誰かが言った。
敦盛が向きを変えた洗脳装置は、瑠璃姫へと向く前に竜胆に正面を晒して。
「――――キスしようぜ奏。俺、今すげえお前をキスしたい」
「ひゃん!? り、りんどう!? 嬉しいけど今ここでなんて大胆――――…………ん」
「ん、はぁ……お前の唇は相変わらず柔らかいな」
「ぷしゅう…………はふぅ…………私、死んでも良いわ…………」
「竜胆!? いきなり何してんだっ!?」
「わお、これは失敗ね」
キス、竜胆は躊躇無く止める間も無く奏にキスをして。
「だからッ、何でだよォオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
「おい敦盛」
「テメェなに奏さんと――って顔近い近い近いテメェ何を――」
「キス、しようぜ敦盛。さっきからキスしたくて堪らないんだ」
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおッ!! 誰か助けてくれッ、俺のファーストキスがピンチだァアアアアアアアアアアアアアア!!」
キス魔、入屋見竜胆が爆誕したのであった。
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