第20話 友情!!



 彼が職員室で衝撃の真実を知る直前、教室では竜胆と円が敦盛不在の机を囲んで。


「なぁ円、やっぱ例の書類の件で呼び出されてるよなアイツ」


「というか知らないみたいだったし、――やっぱり溝隠さんは敦盛に相応しくないみたいだね」


「それには同意する、アイツは溝隠さんに相応しくない」


「いや逆でしょ」


「お前こそ逆では?」


 二人は認識の違いに首を傾げ、しかし結論はほほ同じと言えよう。

 なので。


「――――ではここに、敦盛の恋応援し隊を結成する!」


「どんどんぱふぱふ~~! ところで竜胆、具体的には?」


「俺は溝隠さんと敦盛が恋人にならなきゃそれで」


「オレも同じ」


「………………いや貴方達? それって応援してるの?」


「というか、よくアタシが居る前でそんな話出来るわねぇ……」


 思わずツッコんだ奏と瑠璃姫、彼女たちもそれぞれ敦盛の恋路を応援する立場。

 隣の席で談笑していた彼女達は、話に加わるべく身を乗り出して。


「竜胆、私としては早乙女君は瑠璃ちゃんとお似合いだと思うのだけれど」


「お前の目は節穴か奏?」


「ねぇ竜胆? アタシとしては奏こそ敦盛にお似合いだと思うんだけど」


「いえ瑠璃姫さん、敦盛にコイツは勿体ないです。違う相手を探すべきでしょう」


「解釈違いだけど、やっぱり同意だね!」


「――――前々から聞きたかったのだけど、なんで早乙女君との仲を執拗に否定するの瑠璃ちゃん?」


「そっちこそ、あっくんはセクハラ男だけど情に厚い有望株よ? どうしてフったの?」


「…………」「…………」


「へぇ」「ふぅん」


 バチバチと瑠璃姫と奏の間だで、見えぬ火花が散り始める。

 発起人をさしおいて始まった女の戦いに、男二人は困惑するしかなく。


「(ちょっとちょっと竜胆っ!? 福寿さんは君の女でしょ! どうなってるのコレっ!?)」


「(俺にも分からねぇよ!! なんでいきなり二人でバトってるんだよっ!?)」


「(ううっ、可愛そうに敦盛……奏さんが好きなのに溝隠さんとの仲を応援され)」


「(俺はアイツが瑠璃姫さんに気があるように見えたがな、奏へはどっちかというと憧れに近くて)」


「(それがもし正しくても、今の状況は地獄じゃない?)」


「(………………瑠璃姫さんの相手には相応しくない事は繰り返し強調させて貰うが、確かにこれは地獄だ)」


 ひそひそ話をする男子二人を余所に、クラスの中でも、否、学校でも一位二位を争う美少女は静かに言い争いを始める。


「ああ、ごめんなさいね瑠璃ちゃん。早乙女君が私が好きなのを嫉妬しているのね、素直にならないと早乙女君は振り向いてくれないわよ?」


「アンタこそ、竜胆より大切にしてくれるあっくんと恋人になるべきじゃない? 結構お似合いだと思うわよ?」


「ふふっ、お似合いだなんて……その言葉を言って欲しいのは瑠璃ちゃんの方ではなくて?」


「あらあら、照れてるの? アンタこそ素直になってあっくんの好意を受け入れたら?」


「…………」


「…………」


「早乙女君の何処が嫌なの?」


「逆に聞くけど、アンタこそあっくんの何処が不満だって言うのよ?」


 お互いに敦盛を押しつけあう光景に、彼の親友二人は涙を禁じ得ない。


「(ううっ、敦盛……。お前、幼馴染みである瑠璃姫さんにまで嫌がられて)」


「(こんな会話、敦盛に聞かせられないっ! 不憫すぎるぜ本当に福寿さんは脈なしじゃないかっ!?)」


「(セクハラを除けば敦盛は良いヤツなのにっ、くっ、どうして女共はアイツの良さを分かってくれないんだ!!)」


「(オレが……オレが本当に女だったなら敦盛の恋人になったのにっ!! 男だし恋人が居て幸せなオレを許してくれ敦盛!!)」


 二人は男泣き、そして同じく会話を聞いていたクラス全員が同情して。


「なぁ、誰か敦盛の恋人になってやれよっ!!」「ああ、お情けでいいっ、誰か幸せにしてやってくれっ!!」「アイツは良いヤツなんだよセクハラ癖は最悪だがっ!!」


「ね、どう思う?」「早乙女君が本気で好きな人が居るなら応援したいけど……」「友達としては良いんだけど」「セクハラ癖も可愛いもんだけど、友達止まりでしょアイツ」


 好意的な声は多くも、誰一人として立候補はせず。

 それがまた、親友二人には不憫でしかなくて。


「どうしてだっ、クラスからこんなにも人望があるのに敦盛には恋人が出来ないっ!! 円の言うとおり、俺も女だったらアイツの恋人になったやったのにっ!!」


「ちょっと竜胆っ!? 貴方、早乙女君への好感度高すぎないっ!?」


「こうなったら下級生や上級生にもオレから声をかけて、――今まで溜めてたお年玉、全額払えば誰か敦盛の恋人になってくれないかな?」


「いや樹野? アンタもどうしてそんなにあっくんの好感度高いのっ!?」


 美少女二人が友情に驚く中、親友二人はふと気がつく。


「――――おい円? お前今、大金出せるって言ったよな」


「竜胆こそ、女だったらって言ったよね」


「ふっ、もしかして考える事は一緒か?」


「そうみたいだな、――覚悟は出来ているか? オレは出来てるよ」


「俺も覚悟を決めた、奏はアイツには無理だ瑠璃姫さんとくっつくのは嫌だ、ならさ俺がやるしかねぇよな!!」


「「女装して敦盛の恋人になるっ!!」」


 瞬間、クラスの空気が凍った。

 何を言い出すのかこのバカ共は、頭がおかしくなったのか。

 奏が唖然とし、瑠璃姫が目を丸くする中。


「おおおおおおおっ、ナイスアイディアだ竜胆っ!!」「協力するわ竜胆君!!」「ひゃっはー、メイクは任せろぉ!!」「よし女装部から衣装借りてくるぜ!!」「男の娘部から下着借りてくるわっ!」


「ちょっとみんなっ!? 何考えてるのよっ!?」


「落ち着いて皆っ!? 竜胆を女装させて早乙女君が喜ぶわけないじゃないのっ!!」


 制止する二人に、円と竜胆は仁王立ちをして。


「止めてくれるな奏、お前が敦盛を幸せにしないのなら――――俺がアイツを幸せにするっ!!」


「そうだともっ!! 敦盛を幸せにするのは――オレ達だっ!!」


 その瞬間であった。


「ゴラァアアアアアアア!! クソ瑠璃姫ェエエエエエエエエエ!! 盗聴器と盗撮の件とっとと吐けや――――え、何この雰囲気?」


「逃げて早乙女君!! 竜胆が貴方の事を狙ってるわっ!!」


「今すぐ逃げるのよバカ盛!! アンタこのままじゃ男で童貞を失うかケツの穴の処女を失うわよっ!!」


「え、いきなり何だ? んん? なんで円は俺の腕を掴んでる? なんで竜胆は制服脱ぎだしてる?」


「俺は――――涙を飲んでお前の恋人になる」


「普通の女の子の恋人を探せなかったオレ達を恨んでくれ敦盛……、さ、幸せは今からスタートするんだよ」


「……………………――――どうしてこうなってるんだよおおおおおおおおおおおおおおお!?」


「しまった逃げられた!! 追うぞ円!!」


「勿論だ竜胆!! みんなも手伝ってくれっ! きっと敦盛は自分が女の子の方が良かったんだ女装させるぜ!!」


「「「「協力するぜ(わ)!!」」」」


「そ、そんな竜胆の恋人が早乙女君だなんてっ!? 私を裏切ったわね早乙女君っ!!」


「いやアンタまで流れに乗ったら収集つかなくなるんだけどっ!? 正気に戻りなさいよ奏っ!!」


 その日は昼休みを越えて校内鬼ごっこが勃発、クラス全員が担任である脇部英雄に怒られ。

 次の日、連帯責任で全員が女装と男装で過ごす事になったのであった。


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