第13話 まだ燃えてるファッション魂


 赤ん坊を連れた女性に席を代わり、その際に珊瑚が買うのを手伝うと申し出るのでそれに付き合い、女性が買った軽食をテーブルまで運ぶ。

 そうしてフードコートを出ると、ちょうどそのタイミングで珊瑚の携帯電話に宗佐からの着信が入った。

 買物が終わったらしく、電話を終えた珊瑚がこちらを向き「戻りましょう」と告げてきた。




 再び水着売り場へと戻れば、宗佐達が待っていた。

 月見も桐生先輩も店の袋を手にしているあたり、無事に決まったのだろう。満足いった買物だったようで二人共嬉しそうだ。

 そして二人の間に立つ宗佐はと言えば、達成感を漂わせ一仕事終えた男の表情をしていた。どうやらファッション魂は最後まで燃えていたようだ。本当に、こいつは……。


「健吾、悪いな待たせて」

「いいや、別に気にするな。妹と一緒にフードコートで話してたから」

「そうか。珊瑚と一緒に居てくれたのか。ありがとうな」

「……ん?」


 なんで俺が珊瑚と一緒に居て宗佐に礼を言われるのか。妹の時間潰しに付き合ってくれて、という事なのだろうか。

 だがそんなものお互い様ではないか。

 そう返事をしようとするも、宗佐は珊瑚のもとへと向かってしまった。


「珊瑚、大丈夫だったか?」

「大丈夫だよ。宗にぃってば心配性なんだから」

「だってさ、珊瑚、自分の買い物は終わったからって健吾と一緒に行っちゃうし」

「だからって心配しすぎ。そんな調子でちゃんと月見先輩と桐生先輩の水着選んであげられたの?」


 変なの選んでないよね? と珊瑚が厳しい口調で詰め寄る。

 それに対して宗佐は自信たっぷりに「もちろん!」と返した。


「真剣に選んだに決まってる!」

「そう……。二人に着て欲しい水着選んだんだ」


 そっか、と珊瑚が呟いたのが聞こえてきた。

 興味無さそうな素振りをしているが、実際には宗佐がどんな水着を選んだのか気になり、そして不服でもあるのだろう。

 普段のように露骨に拗ねる素振りはしないあたり、それは彼女の胸の内から漏れ出た本物の感情だ。気付いてしまうと何とも切ない。


 だというのに、肝心の宗佐はと言えば……。


「下手に今年の流行を追いすぎれば、来年着れなくて買い直しになる必要がある。かといってあまりに無難過ぎても、わざわざ他人に選ばせたかいが無い。つまり俺は『流行を追いすぎず外し過ぎず、来年以降も着ることができ、それでいて普段二人があまり選ばなさそうで他人に任せて良かったと思える水着』を選んだ!」


 と、誇らしげに胸を張って告げた。


 その瞳にはファッション魂が燃え盛っており、これにはさすがの珊瑚も理解が追い付かなかったのか唖然としている。

 ちなみにアプローチが失敗に終わった月見と桐生先輩はと言えば、肩を竦めて苦笑を浮かべている。これもまた宗佐らしいと思っているのだろうか。


「芝浦君、優しいね」


 とは、月見の感想。


「芝浦君って本当に面白いわ」


 こちらは桐生先輩の感想。


 二人の感想を聞きつつそっと珊瑚の隣に立てば、彼女はしばらく考えた後……、


「宗にぃってば、お財布に優しくて、考えが斜め上すぎて面白い」


 と、結論付けた。

 一応宗佐を褒めようとはしているのだろう。だが表情は随分と渋く、苦渋の末に出た褒め言葉なのは一目瞭然。


「妹、今ならまだあいつらを呼び出せるからな」

「……ボーリング場なら、暑くないし宗にぃも溶けずに済みそうですね」


 有りかも、と小さく呟く珊瑚を横目に、俺はいつでも彼女のゴーサインに応えられるよう、携帯電話をそっとポケットから取り出した。



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