第3話 経費削減

 僕は心に決めた。仮に詐欺の片棒を担がないと給料がもらえないのだとしても、子供を死なせたくはないじゃないか。

(社内だと誰が聞いてるか判らないから、異世界に行ってから)

 これまでは、無事の到着を見届けたら契約の記憶を消してから、アフターフォロー。金額次第だが、短くても十日、長ければ一年ということもあった。それがこの体験ツアーでは、ほんの数時間。何と見事な経費削減!

(転生先はベータ系、世界に危機が迫るタイプか)

 装置を操作しながら、僕は考えた。魔王という場合もあるが、世界を滅ぼす災害というようなこともある。転生者はたいてい、それらの問題を解決することができる能力を与えられるのだが――体験の場合は、そうしたものはない。何しろ、「体験」なんだから。

 今回の行き先は大都市の繁華街。体験ツアーでは安全できれいなところを案内するように指示されている。僕だってわざわざ危ない場所に連れてく気はないが、真実はきちんと伝えなくては。

 少年はわくわくが押さえきれない様子だ。いままでなら、僕も一緒になって、これからのプランをいろいろ話すのに。僕はため息をこらえながら、転生装置を稼働させた。

「ええと、お客様……シフォン様」

 資料を思い出しながら僕は呼びかける。転移が済むまで少し時間があるから、ここで少し親しくなっておこうと思った。

「シフォンって呼んでください!」

 まるで少女のような甲高い声がきて、僕は目を見開いた。向こうから距離感を詰めてきたことに驚いたのだ。

「ええと、あの、添乗員さんは一年くらいサポートしてくれるって聞いたので、あの、仲良くできたらいいなって」

「え」

 僕はぽかんと口を開けた。ちゃんと契約書を読んでいないのか!?

「あの……シフォン様は何故、当社の体験ツアーをお望みなんですよね……?」

 おそるおそる僕は尋ねた。

「何をご覧に、なったのでしょうか……?」

「勇者になった少年が表紙のパンフレットです!」

「あー……去年の」

(去年! まだうちが、詐欺に走るまで堕落してなかった頃! アフターフォローに金をかけ、それを最前面に押していた……)

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