第2話 生き延びるためには

 いまや猫も杓子も転生時代。弊社も一時期はてんてこまいだった。

 でも新規参入してくる会社も後を絶たず、顧客は派手なキャンペーンを打つ他社にどんどん取られて、弊社の売り上げは転生流行前まで落ちてしまったという訳だ。

 上の判断も仕方ないのだろう。

 最低限の基本要素だけ合致した世界、つまり知的生命体がおおむね人型であるとか、言葉を使って意思疎通をするとかしている世界に案内し、テンションの上がった顧客の判断力が鈍くなっているところを利用して合意を得、その後何が起ころうとおかまいなしに接触を断つ――どうにも詐欺っぽい気がしてならないが、どこもやっていること。確かに、コストは相当押さえられる。

 そうだ、弊社が生き延びるためには仕方ないのだ。

「あの……」

「はい、体験キャンペーンのお客様ですね!」

 僕は、上司が僕に見せていたようなわざとらしい寸前の笑みを次の犠牲者、もとい、お客様に向ける。

「各種署名も体験代金のお振込ももうご完了で。はい、確認できました、問題ありません。それでは早速」

 目の前の相手はまだ子供と言っていい少年だった。十代の半ばか、二十歳にはなっていないだろう。細い手足、日に当たっていなさそうな肌、少なくともあまり丈夫そうではない。

(……「思っていたのと違う」とすぐに音を上げるかな)

 そうであればいい、と僕は思った。それならこの子が失うのは体験料金だけだ。もしもこんな、少し走ったら息を切らしてしまいそうな少年が、固有のスキルも伝説の武器も助けてくれるヒロインも用意されないまま、魔物の前に放り出されたら。

(危険をよく説明しよう。上には、余計なことを言うなと怒られるかもしれないけど)

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