第2話 能力者が集う学校




 この学校があるのは、標高千五百メートルを超える高原の湖の畔。旧リゾート地であり、今でも周囲にはホテルや遊園地などの名残が認められる。


 この一帯の土地を国が買い上げ学校を創設したのは、能力者の存在が世間で認知されてから数年後のこと。そこまで急いだ理由は、政府が能力者の管理を優先したためだった。


 多くの能力者が能力ニカに目覚めるのは、15歳から18歳までの間とされる。その意味でも、表向きには高等学校とするのに都合がよかった。


 廃れた高原のリゾート地を選んだのも、一般社会から隔離するためとみて間違いない。生徒たちは全寮制の当学校に入学すると、外出制限や通信端末の使用不可など厳しい管理下に置かれる。カプセル出現以前から、生徒たちは学内に囲い込まれていたのだ。


 学校では一般高校同様のカリキュラムに加え、能力研究というお題目で様々な試行錯誤が行われていた。力が入れられたのは主に能力覚醒の促進と、覚醒した能力ニカのカテゴライズといったところ。


 他にも能力の制御や強化のための訓練などが施されていたが、効果は芳しくなかったように思う。能力研究チームとして集められた各分野の専門家たちも、完全に手探り状態だった。


 世界では昨今、能力者によるものと思しき犯罪が頻発している。常識を超えた力を犯罪に用いられた場合、従来の警察ではとても対処できるものではなかった。他にもあらゆる場面、たとえば司法の場でも同様である。


 すなわち能力者の隔離は必要不可欠。そのためには、彼らを割り出す必要があった。そして、他国に先んじて判別テストの手法を確立したのが、この国。小中高の少年たちに判別テストを行い、能力者判定が出た者には、当学校への入学を必須としたのである。


 判別テストは、能力者を管理育成し彼らを国益と転化することに大いなる可能性を示した。他国に対して十分なアドバンテージを築いた後では、外交カードとしても利用することも可能。


 だが、判別テストも万能ではない。能力者判定を受けた者であっても、実際に能力覚醒に至る者は三分の一程度。その現実は、この学校に大きな影を落としていた。


 卒業後も、能力者の進路には政府が大きく関与している、という噂がある。軍事、警察、司法、等々。能力が求められる場は、列挙するに暇がない。世間一般に表沙汰とはなっていないが、彼らの人権は侵害されようとしているのかもしれない。


 その疑念が在校生からの反発を生み、カプセルを生み出す結果となった。そう、この学校を外界から隔絶するカプセルは、在校生の能力ニカによるもの。誰のものかは不明だが、規模の大きさと継続性から複数名の共作であると俺は考えていた。


 カプセルは能力者たちの独立闘争の象徴であると、現生徒会長の霧生玲二きりゅう れいじは言う。霧生は自分たち在校生及び卒業生の自由を勝ち取るまで、カプセルの解除はしないと政府に対して宣言した。


 現状、食料等はカプセル越しに搬入可能。水道や電気などのライフラインも生きていて最低限の生活は守られている。その上で霧生は、教師たちが不在の中でも秩序を乱さないように、生徒会を中心に学内の統率を図っていた。


 一方の政府はカプセルを解除しない場合、やむを得ずテロ行為として対処せざるを得ないとし、現状では多くの生徒が人質になっているとの見解を示した。更に、同校卒業生の能力者で制圧チームを結成し、突入の準備を進めると牽制したのである。


 それに対し霧生は、定例の生徒会選挙を利用することで、一時的に政府からの圧力をかわすことに成功。選挙で自分が敗れた場合、新生徒会長の意向に従うと明言したのだ。


 当初よりカプセルは、全生徒の総意ではない。霧生をはじめ生徒会上層部の独断だ。事実、現在の学内はカプセルの維持派と解除派に二分している。それも当然だろう。全生徒の三分の二以上を占めるのは、能力の未覚醒者なのだ。


 カプセル解除派の対立候補が擁立されれば、数の上では霧生が不利になるのは明白。選挙は、もう数週間後に迫っていた。政府は選挙管理委員の派遣受け入れを条件として、選挙が終わるまで強硬な姿勢に出ないとの方針を示している。


 今度の生徒会選挙には、全生徒たちの未来が委ねられているのだ。


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