川口直人 71
クリスマスイブから数日後の事だった。あれから新しい商品開発計画を立て、クラウドファンディングを募ったところ、さらに資金が集まった。それらの資料をかき集め、俺は再び常盤社長の元を訪れていた。
「恵理と2人でイブを過ごさなかったそうだな」
「え?」
常盤社長は会うなり、仕事の話しでは無くあの女の事を切りだして来た。
「ええ、色々忙しかったので」
「そうか…余程娘が気に入らないのだな」
「そ、それは…断ったのにはそれなりの理由があったからですっ!」
「ほぅ…理由。一体どんな理由なんだね?」
「え…?ま、まさか説明を求めているのですか?」
「ああ、勿論だ。その後に仕事の話をしようじゃないか」
なんて人なんだ…。親がこんな風だから。娘も我儘身勝手な人間に育ったのだろう。
「…分りました。説明…致します…」
そして俺は何故常盤恵理からのクリスマスのデートの誘いを何故断ったかを説明した。元恋人の元を訪ねて、マンションの鍵の返却を求めた事。プレゼントとして送ったホテルの宿泊券を渡すように迫った事、そして手切れ金として100万円を渡そうとした事…それら全てを俺は半ばやけになって説明した。
その間、常盤社長は一言も話さずに黙って話を聞いていた。
俺が話し終えると、社長は口を開いた。
「成程…そんな事があったのか…。確かに娘は少々やりすぎだったかもな。申し訳なかった」
社長が頭を下げて来た。
「え?」
その姿に驚いた。まさか常盤社長からこのように頭を下げて来るとは思いもしなかったからだ。
「だが…何故、君はこまで詳しく事情を知っているのだ?まさか…未だに元恋人と隠れて会っているのかね?」
「まさかっ!そんな筈ないじゃありませんかっ!」
そんな風に思われるのは心外だ。俺がどれだけ辛い思いをしながら鈴音と別れたのか知りもしないくせに…!
「なら、何故知っているのだ?」
「…恵理さんに黙っていて下さる事を約束して頂ければ…御話いたします」
「分った。黙っていよう。約束する。君には今回の事で負い目があるからな…」
常盤社長は頷いた。
「それは…元恋人の幼馴染と連絡を取り合っているからですよ…」
俺は岡本との関係を白状した―。
****
その日の夜―
俺は岡本のスマホに連絡をする事にした。今回の話で5月までに川口家電の買収金額の半分を集められたら買収の事は考え直してみようと提示されので、その報告をしようと思ったからだ。
トゥルルルル…
トゥルルルル…
トゥルルルル…
『おい!もう少し時間考えてから電話掛けて来いよ』
7コール目でようやく電話出た岡本は酷く機嫌が悪そうだった。
「何だ?まずい時間だったのか?」
いつも以上に岡本は喧嘩腰だった。まぁいつもの事だし、この男の機嫌取りに付き合って等いられない。しかし、次の瞬間、岡本はとんでもないことを言って来た。
『さっきまで鈴音のマンションにいたからな』
何だって…?!
俺が岡本に激しく嫉妬したのは言うまでも無かった―。
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