川口直人 17
1月4日―
今日から仕事始めだった。いつものように朝8時にマンションを出る。そして加藤さんが住んでいるマンションを見てから出勤する。…これが俺の日常だった―。
「新年あけましておめでとうございます」
出勤して、職場の人達に挨拶してロッカールームで着がえをする。…今日は5人家族の引っ越しが入っている。
忙しくなりそうだ…。
ユニフォームに着換えながら思った―。
****
18時―
「ふぅ~…新年早々きつかったな」
シャワールームでシャワーを浴びながら隣のブースで身体を洗っている先輩が声を掛けて来た。
「ええ、確かにそうですね」
「どうだ?川口。一杯やって帰らないか?」
俺は少しだけ考え…断りを入れた。
「いえ。すみません。今日は帰ります。…早めに帰って休みたいので」
「う~ん…確かに言われてみればそうだな。よし、俺も今日はそのまま帰る事にするよ」
先輩は笑いながら言った―。
****
私服に着換え、挨拶をすると会社を出た。家路を目指しながらスマホを手に取ると、着信の知らせが入っている。
「え…?」
着信を見て、驚いた。電話もメールも10件以上届いていたのだ。しかもすみれから…。
「一体どういうつもりなんだ…」
メールも録音メッセージも開く気になれず、そのまま俺はマンション目指して歩き続けた。
****
「ん…?」
マンションが見えてきた頃、街灯の下で佇む人物がいる事に気付いた。
誰だろう…?
近付いていき、息を飲んだ。何とそこに立っていたのは他でもない、すみれだったのだ。すみれは俯いたまま、立っている。
「すみれ…?」
近付き、少し距離を取ったところで俺は声を掛けた。
「直人っ?!」
すみれは顔を上げると、いきなり駆け寄ると、腕の中に飛び込んできた。
「直人、直人…っ!」
すみれは俺に縋りついて来る。
「やめろっ!離れてくれっ!」
すみれの両肩を掴み、引きはがすと言った。
「一体どういうつもりなんだ?マンションの前で待ち伏せなんて…!」
「だって、いくら連絡入れても無視してるじゃない!」
「違うっ。今日から仕事だったんだ。別に無視していたわけじゃない。それより俺達は別れたはずだろう?それに俺にはもう好きな女性がいるんだ。はっきり言って迷惑なんだよ。いい加減…ンッ!」
突然唇が塞がれた。すみれが唇を重ねて来たのだ。
「や…やめろっ!」
無理矢理顔を背け、すみれを睨み付けた。何て女なんだ…もはやすみれに対して、嫌悪感しか湧き上がって来ない。唇を袖でゴシゴシ擦ると、途端に悲し気な目で俺を見る。
「どうしてよ…私達、あんなに愛し合っていたでしょう?なのに…」
「そうかもしれないが…俺はもうすみれの事は愛していない」
「そ、そんな…酷い…っ!」
顔を覆って泣くすみれ。
「酷い?どっちが?裏切ったのは自分なのに?」
「そんな言い方しないでよ…今は直人だけなんだから…」
尚も縋りついて来ようとするすみれから視線を逸らせた、その時―。
俺達を避ける様にマンションへ向かって歩く女性を発見した。
間違いない、彼女は…!
「加藤さんでしょう?」
気付けば俺は彼女に声を掛けていた―。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます