亮平 3
6時―
出勤前から俺はイライラしていた。理由は分り切っている。鈴音の事だ。
鈴音から一方的に電話を切られてから既に5日が経過していた。…俺はもう我慢の限界に達していた。二度と連絡して来るな?さよならって何だよ!忍に嫌われるから?そんな下手な嘘に俺が騙されると思ってるのか?大体20年も幼馴染として付き合ってきた仲なのに、そんな簡単にああ、そうですかと言って俺が受け入れるとでも思ってるのか?
「鈴音…そんなに俺と忍に関わるのが…嫌なのか‥?くそっ!どうして俺がお前に振り回されなくちゃならないんだよっ!」
ドスンと乱暴にベッドへ腰を下ろし、髪をかき上げながら呟いた。
「もう二度と連絡してこないでって言ってたよな…だったら会いに行く分には構わないって事だよな…」
よし、なら今夜仕事帰りに鈴音の職場まで行ってやる。そして何故あの家を出たのか問い詰めてやる。
俺はベッドから立ち上がると出勤の準備を始めた―。
****
午後7時―
「くそっ!得意先回っていたら遅くなってしまった!」
錦糸町駅に降り立った俺は焦ながら鈴音が勤務している代理店を目指して走っていた。俺は今の鈴音の住んでいるマンスリーマンションの場所を知らない。そして鈴音が今夜は何時に仕事が終わるかも…!息を切らせながら鈴音の勤務先の代理店を目指して走っている時…偶然俺は見た。鈴音がレジ袋を持って男と仲良さげにスーパーから出てくる姿を…。
「鈴音っ!」
気付けば俺は鈴音の名前を叫んでいた。
「え…?亮平…ど、どうしてここにいるの…?」
鈴音は大きな目を見開いて、俺を見ている。だが、俺は鈴音よりも隣にいる男の方が気になって仕方が無かった。
「どうしても何も・・・お前が俺からの連絡を一方的に拒否したから、こうしてお前の職場の有る錦糸町までやってきたんだよっ!」
苛立ち切れに言うと、鈴音の連れの男がまるで俺から鈴音を守るかのようにたちはだかってきやがった。ああ、そうか。そうやって鈴音のナイト気取りをしているつもりだな?まさか…そいつと暮らしたくて鈴音は忍を捨てたのか?!
「はんっ!やっぱりそう言う事か…。結局お前は男と暮らしたくて忍さんを捨てて家を出たんだろうっ?!やっぱり…お前ってそういう女だったんだな?」
「!」
すると俺の言葉に鈴音が青ざめた。その顔を見た時…胸がズキリと痛くなったが、それでも鈴音を傷つける言葉が止められない。俺が鈴音の連れの男に、鈴音には他に男がいると言ったら、そいつは驚いた顔で鈴音を見た。鈴音はその事について抗議してきたが、知った事か。そしてついに俺は言った。
「お前、忍さんとの約束を破って男と酒を飲んで帰って来て…家の前でキスしていただろう?」
その言葉に男は青ざめ、鈴音は泣きそうな顔になった。その顔を見た時、俺の胸がズキリと痛んだ。
違うんだ…。鈴音、そうじゃ無い…俺はそんな顔をお前にさせたいわけじゃないんだ。なのに‥この口が勝手に鈴音を傷つける言葉を吐いてしまう…。
「とにかく、鈴音っ!お前に大事な話があるんだよ!」
兎に角、この男から引き離さなければ!俺は鈴音の腕を掴んだ。
「い…痛いっ!」
鈴音の顔が苦痛に歪み、一瞬ハッとなった。
「おい!やめろっ!」
結局井上とかいう男に妨害されて、俺は鈴音と話す事を諦めざるを得なくなってしまった。何よりあれ程強く鈴音に拒否されれば、手を引くしかないじゃないか。そして鈴音は俺の前から去るときに振り返ると言った。
「亮平…私の部屋にある物…今度の日曜日に引っ越し屋さんが来るから‥その事‥お姉ちゃんに伝えて置いて」
「え…?何言ってるんだ?鈴音…」
俺はそれだけ言うのが精一杯で…去ってゆく鈴音を追う事が出来なかった。
何…またすぐに連絡をすればいいだろう…その時の俺は甘く考えていた。まさか鈴音が俺のアドレスと電話番号を拒否するとは思ってもいなかったからだ。
そして、そこから約半年…鈴音とのやり取りが途絶えてしまう事になる―。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます