第20章 12 女子会
実家から戻り、2週間近く経過していた。そして明日は真理ちゃんが泊まりに来ると言う前夜…私は亮平と電話で話していた。
『鈴音。何で最近実家に帰って来ないんだよ?』
電話の中の亮平は明らかに不満げな声だった。だって‥実家に帰ったら偶然、彼に出会ってしまうんじゃないかと思うと帰りにくかったから。直人さんの弟…私が関わってはいけない男性。
「う~ん…最近色々忙しくて…ほら、ベテランの先輩が抜けちゃったじゃない?その穴埋めが結構大変で…」
太田先輩の事を言いかけて、私は失言した事を悟った。
『おい、鈴音…お前まさか…その先輩と連絡取り合っているんじゃないだろうな?』
「まさか!そんなはずないでしょう?!一度だって無いから」
『そうかぁ~…まぁ一応信じてやるけど‥明日は仕事休みなんだろう?当然実家に帰って来るよな?忍が寂しがっていたぞ?』
「ごめん、明日は無理。同期の友達が泊まりに来てパジャマパーティーする事になってるから」
『はぁ?パジャマパーティー?』
「何、ひょっとしてパジャマパーティー知らないの?パジャマパーティーって言うのは…」
『馬鹿!知らないはずないだろう?だけど何だってまた突然に…』
「あのね、その友達…もうすぐ入籍するの。だからそのお祝いを私の部屋でやることになったんだよ」
『へぇ~そうなのか。それはめでたいな』
「うん。秋頃に式は挙げるらしいよ」
『そうか…羨ましいか?鈴音』
「え?」
『友達が結婚するって話聞いて羨ましいか?』
「それは勿論…」
言いかけて途中でやめた。亮平だってもうすぐお姉ちゃんと結婚するんじゃないの?何だかこの話、亮平とするのは嫌になってきた。
『そうか、羨ましいんだな…やっぱり』
「ううん、べっつに!私はずっと1人でもいいもの」
だって…もう私は…。すると亮平がとんでもない事を言ってきた。
『仕方ないな~…何なら貰ってやるか?』
「はい?」
『恋人がいない可愛そうな幼馴染のお前を…俺が嫁に貰ってやろうか?って聞いてるんだよ』
「なに、それ?ひょっとして酔ってるの?」
お姉ちゃんと結婚する癖に…いきなり何を言い出すんだろう?
『別に酔ってなんかないぞ?まだ缶ビール3缶目だ。それでどうする?念の為に聞くが鈴音はどんな式を挙げたい?』
「何それ、やっぱり酔ってるんじゃないの。大体亮平はお姉ちゃんともうすぐ結婚するんでしょ」
全く、質が悪い。亮平は酔ってるんだから、これくらい言ってもいいだろう。
『は?お前今何て言った?』
「ううん。別に~。それじゃ、もう電話切るからね。飲み過ぎてアル中にならないようにね」
『お、おい鈴音…まだ話は…』
プツッ
私は強引に電話を切ってしまった。何故なら明日、真理ちゃんを迎える為の料理の下ごしらえの最中だったから。
「さて、続き続き…」
私は腕まくりすると包丁を手に取った―。
****
翌日の夜―
「「かんぱーい!!」」
真理ちゃんと2人、お風呂に入ってパジャマを着た私達は『パジャマパーティー』を始めた。缶チューハイ片手に盛り上がるのはやっぱり恋愛の話。
「ふ~ん…真理ちゃんの彼氏は30歳なんだね。結構年が離れてるんだね」
昨日仕込でいた生春巻きを食べながら私は真理ちゃんを見た。
「うん。ほら、私って結構性格きついから年上の男性の方が包容力があっていいみたいなんだ」
真理ちゃんがチーズを口にくわえた。
「そういう鈴音はどうなのよ~。井上君なんか鈴音を狙っていたみたいだけど~」
真理ちゃんが肘でぐりぐりしながら尋ねて来る。
「ええ~…井上君?う~ん…私に取っては井上君は‥」
ぼんやり彼の顔を思い描き、言った。
「うん、無いかな。ただの同期仲間。友達だよ」
何故だろう?井上君だけはどうしても恋愛対象に見えない。
「ふ~ん…そっか…でも鈴音は彼氏さんとは別れちゃってるんだもんね~。いきなり次の恋愛は無理か。あ!でも…井上君に聞いたよ?!わが社のホープである太田先輩といい雰囲気だったって!」
「んぐっ!」
危うく真理ちゃんの言葉に口にしていたチューハイを吹き出すところだった。
「な、な・何それ…」
「あ~…その慌てよう…やっぱり何かあったな…?鈴音!正直に話しなさい!」
真理ちゃんはもう酔ったのか、絡み始めて来た。
「わ、分ったってば!言う!言いますっ!」
それでポツリポツリと私は太田先輩の事を話した。話し終えると真理ちゃんは神妙そうな顔でため息をついた。
「そっか…そんな事があったんだね…」
「うん」
「でも普通の女子ならそんな話、嬉しくて飛びついて、相手について行くと思うけど…鈴音は違ったんだね」
「そうだね…」
きっと…まだ心のどこかで直人さんの事が忘れられないからだ…。
「よし!今夜はとことん飲み明かそう!」
「そうだね。飲もう飲もう!」
こうして真理ちゃんと2人、楽しい飲み会は深夜まで続いた。
真理ちゃんも結婚する…。
そして直人さん、お姉ちゃんに亮平も…。
どうしようもない寂しさを感じながら、私はお酒を飲んだ―。
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