第18章 3 実家での一時  

ピンポーン


玄関のインターホンを押して数秒後、ガチャリと玄関のドアが開いてお姉ちゃんが表れた。


「鈴音ちゃん!」


笑顔のお姉ちゃんが表れて、いきなり抱きつかれた。お、お姉ちゃん…。


「うん、ただいま…」


私はそっとお姉ちゃんの背中に手を回し、目を閉じた―。




「鈴音ちゃん、夜ご飯まだ食べていないんでしょう?」


荷物を持って家に上がるとお姉ちゃんが尋ねてきた。


「うん。まだだよ」


「それじゃ、一緒に食べましょう。鈴音ちゃんと一緒に食べようと思って待っていたのよ?」


「そうなの?それじゃ手を洗ってくるね」


廊下にキャリーケースを置くと私は洗面台へ向かった―。



手を洗ってリビングへ行くと、お姉ちゃんがダイニングテーブルの上の鍋敷きに大きな土鍋を置くところだった。


「今夜のメニューは何?」


「フフフ。今夜のメニューはね、鈴音ちゃんの好きな豆乳鍋よ?」


「え?本当?」


お姉ちゃんが土鍋の蓋を開けると、そこからは真っ白い湯気に包まれ、グツグツと煮え立つ豆乳鍋が表れた。色々なお野菜が鶏肉と一緒に煮込まれ、とても良い匂いがする。


「うわあ…美味そう。一人暮らしだとなかなか鍋料理って食べないから…」


椅子に座りながら私は豆乳鍋を見つめた。


「そうよね、私もそうだもの。だから鍋にするときは亮平くんを家に呼んでるのよ?」


「へ〜そうなんだ」


お姉ちゃんと亮平の中は順調そうだな…。


「実はね、この間トマト鍋スープを作ってみたの」


お姉ちゃんが丼に豆乳鍋をおおきな蓮華でよそってくれながら言う。


「トマト鍋スープ?何だか美味しそうだね」


「うん、とっても美味しかったわ。食べてみたい?」


私の前に豆乳鍋の入った丼をテーブルの前に置いてくれた。


「うん、是非食べてみたいな」


「そう、なら今度鈴音ちゃんがまた家に来る時に作るわね?」


お姉ちゃんは自分の分の丼にも豆乳鍋をよそうと、私の向かい側の椅子に座った。


「それじゃ、食べましょう?」


「うん、食べよう?」


「「いただきます」」


私とお姉ちゃんは声を揃えて『いただきます』を言うと、熱々の豆乳鍋を食べた。


2人でお鍋をつつきながら色々な話をしたけれども、お姉ちゃんは私が直人さんと別れた話は一度も触れることが無かった。そんな気遣いが嬉しかった―。



****


21時―


「鈴音ちゃーん、お風呂湧いたわよ」


お姉ちゃんがお風呂場から呼ぶ声が聞こえた。


「はーい」


持ってきたキャリーケースから洗面用具とパジャマを出してお風呂場に行くと、丁度お姉ちゃんがお風呂場から出てくるところだった。そして私の洗面用具を見ると言った。


「ねえ、鈴音ちゃん。これからも時々泊まりに来てほしいからその洗面用具、家に置いておかない?」


「え?」


その言葉に思わずドキリとした。交際を始めてすぐに直人さんから同じような事を言われたのを思い出してしまった。


「どうかしたの?鈴音ちゃん?」


「う、ううん。何でもない。それじゃ、そうしようかな?」


「うん、是非そうして?あ、そうそう。入浴剤は鈴音ちゃんが好きな入浴剤を入れておいたからね。それじゃゆっくり入ってきて」


「ありがとう」


するとお姉ちゃんは笑みを浮かべると脱衣所を出て行った。


「さて、それじゃ入ろうかな…」


服を脱ぐと私は浴室へ向かった―。



****


お風呂から上がって、髪をタオルで拭いながらリビングへ戻るとお姉ちゃんが電話で話をしていた。そして私を見ると言った。


「あ、鈴音ちゃんが出てきたから変わるわ」


え?変わる?


お姉ちゃんは私を手招きしながら呼んだ。


「鈴音ちゃん、亮平くんからよ」


「え?亮平から?」


一体何だろう?


「もしもし?」


『ああ、鈴音。どうだ?久しぶりに実家に泊まる感想は?』


「うん、悪くないよ」


『そっか、明日俺も仕事行けば休みに入るから一緒にスーパー銭湯行こうぜ?』


「うん、いいよ」


『よし、それじゃ明日迎えに行くから待ってろ。それじゃあな』


「え?お姉ちゃんに変わらなくていいの?」


『ああ、もう話は済んだからいいんだ。おやすみ』


「おやすみなさい」


そして電話を切ると、いつの間にかお姉ちゃんがいない。何処に行ったんだろう?

するとお姉ちゃんがキッチンから表れた。手にはグラスに入ったワインを持っている。


「鈴音ちゃん、お風呂に私も入ってくるからワインでも飲んでいて?ベッドの用意はもうしてあるからいつでも休めるからね?」


「あ、ありがとう…」


差し出されたワイングラスを受け取るとお姉ちゃんはにっこり笑みを浮かべ、去って行った。


私は早速ワインを口に入れた。


そのワインはちょっぴりほろ苦いけど…美味しかった―。

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