第18章 4 目にしてはいけなかったもの
翌朝―
自分の部屋で眠っていると、下から良い匂いが漂って来ることに気づき、私は目を開けた。
「何だろう?いい匂いがする…」
時計を見ると7時になろうとしていた。
「え?もうこんな時間?!」
慌てて飛び起き、ジーンズに長袖のTシャツ。そしてフリースのパーカーを着て階段を降りて行くと、今度は包丁のトントンという音も聞こえてきた。
「お姉ちゃん…?」
台所を覗くと、そこにはエプロンをしめたお姉ちゃんがきゅうりを切っていた。
「あ、おはよう鈴音ちゃん。よく眠れた?」
お姉ちゃんが笑顔で私を見た。
「あ、おはよう。お姉ちゃん。ごめんね、寝坊して。手伝うよ」
「いいのよ、鈴音ちゃんはゆっくり休んでいて」
「だけど…」
「大丈夫だってば。鈴音ちゃんは普段お仕事してるんだから、ね?ほら、テレビでも見て」
お姉ちゃんは私にリモコンを手渡すと、台所へ戻ってしまった。
「う〜ん…でも特に観たいテレビは無いしな…」
スマホで何か動画でも見ようかな…。手元に置いたスマホを手に取り、何気なく検索サイトを開いてみた。するとトップ画面に様々なニュースが表示され、私の目はあるニュースに釘付けになってしまった。
『常盤商事と低迷を続けていた川口家電、ついに合併』
ドクン
心臓の音が大きくなるのを感じた。直人さん…。私は震える手でその記事を表示させた。そこに書かれていたにはまさにタイトル通りの内容が書かれていた。それに付随するニュースとして『セレブ婚』の文字が飛び込んできた。
ドクン
ドクン
ドクン
私の心臓はうるさいほどに大きく鳴っている。見てはいけないと思いつつ、私は恐る恐るその文字をタップした。
『常磐商事の社長令嬢と川口家電の時期跡取り、ついに婚約発表』
そしてそこには何処かで隠し撮りでもしたのだろうか、川口さんと恵利さんの写真が掲載されていた。川口さんの顔はよく見えなかったけれど、恵利さんの顔ははっきり映し出されていた。恵利さんは直人さんの腕に自分の腕を絡めて、2人は町中を歩いている。
「な、直人…さん…」
気づけば、その名を口にしていた。心臓は激しく波打ち、口から今にも飛び出しそうだ。久しぶりに目にした写真が…まさか、こんな写真だなんて…。
その時―。
「鈴音ちゃん」
背後でお姉ちゃんが声を掛けてきた。慌てて振り向くと、そこには驚いた顔をしたお姉ちゃんが立っている。
「な、何?お姉ちゃん」
スマホの画面を落とし、お姉ちゃんを見た。
「何って…朝ご飯が出来たから呼びに来たんだけど…鈴音ちゃん、どうしたの?顔色が真っ青よ?」
お姉ちゃんが心配そうな顔で私を見る。
「だ、大丈夫。何でもないよ。別に…」
何事も無かったように何とか返事をする。
「本当に?今にも倒れそうよ?」
「へ、平気だよ。ご飯出来たんだよね?食べるよ」
私は無理に笑うと言った。
「そう?なら一緒に食べましょう。もうテーブルの上に用意してあるから」
「うん」
ソファから立ち上がると、私はダイニングテーブルに向かった。
テーブルの上には豆腐とワカメの味噌汁、レタスときゅうり、トマトのサラダに炊き込みご飯だった。
「へ〜炊き込みご飯作ったの?」
椅子を引きながら尋ねるとお姉ちゃんが笑顔で答える。
「ええ、そうよ。鶏ごぼうと生姜の炊き込みご飯なの。」
「美味しそうだね、いただきます」
「いただきます」
2人で手を合わせて、お姉ちゃんと向かい合って食べる朝ごはん。お姉ちゃんは色々話しかけて来たけれど、その会話の殆どは耳にはいって来なかった。ただ抵当に相槌を打つだけの会話。
私は激しく後悔した。
どうしてあんなニュース目にしてしまったんだろう…。
この日の朝ごはんは…味が良く分からなかった―。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます