第16章 16 悲しみのメッセージ動画
「そ、そんな…」
もうこの2つのニュースを目にしただけで、直人さんの身に何が起こったか分ってしまった。そして私との関係が完全に終わってしまったことも…。
<政略結婚>
私の頭の中にこの言葉が浮かんだ。小説やドラマでは耳にする事があったけれども、あまりにも自分とは無縁な…現実離れした話だと今までは思っていた。だけど…
「まさか…私がそんな話に巻き込まれるなんて…」
気付けばポツリと呟いていた。私はのろのろと指を動かし、URLを打ち込んでキーを打つと、そこに現れたのはやっぱりパスワードだった。
「今更…こんなもの見ても…無意味なのに…」
だけど、それでもまだ私は直人さんの事が好き。だから…多分これが最後のメッセージを見ておきたかった。そして私は自分の誕生日である数字を打ち込むと画面が切り替わり、1人の人物が映し出された。
そこに映っていたのは…やっぱり直人さんだった。
私はてっきり文章か画像が貼られているだけだろうと思っていたから、直人さんが動画で映し出されたのを見た時には心臓が止まりそうになった。
「な、直人さん…!」
そこには私の良く知る直人さんが映っていた。家具も何も無い部屋だったけど、私は分った。場所は多分あのマンションで撮影したのだろう‥。
すぐに画面の再生を止めると、PCのボリュームを上げて動画を再生した。画面の中の直人さんは…私に話しかけてきた。
『鈴音…この動画を観ているって事は、もう何もかも分っているんだろうね。これを目にするまでの間…どれだけ鈴音を傷つけて来たかと思うと胸が痛むよ。』
直人さんは胸を押さえながら言う。
『鈴音、俺はずっと内緒にしていたことがあるんだ。俺の家は会社を経営している。だけど親の言いなりになって後を継ぐのが嫌で…自分で就職活動をして今の会社に就職したんだ。仕事は肉体労働で正直きつかったけど、でもこの仕事に就いて良かったと真底思ったよ。だって鈴音、君に出会えたからね。最も…鈴音にとっては俺との出会いは最悪だったかもしれないかな?』
「直人さん…」
直人さんは寂しそうに笑っていた。
『鈴音の事は本当に大好きだった。鈴音と家庭を持つこと…何度夢に見たか分らないよ。いつか近いうちにプロポーズしようと思って、色々台詞を考えていたんだ。なのに…それが全て駄目になってしまった…』
直人さんは俯いて肩を震わせている。ねえ…もしかして…泣いてるの?少しの間画面の中の直人さんは俯いていたけれど、やがて顔を正面に向けて、また語りだした。
『俺が全て悪かったんだ。会社の事なんかちっとも考えていなかったから。まさか業績があんなに悪化していたなんて…俺のところに連絡が入ってきた時にはもうすでに手の尽くしようが無かったんだ。父に泣きつかれて、会社を買収しようとしている企業に一緒に足を運んだんだ。社員を救うためには何とか先方に頼みに行かないといけない。どうか一緒に来てくれと言われて…今まで知らんふりしていた責任を感じて父と一緒に『常盤商事』に行ったら‥そこには社長と社長令嬢が居たんだ。何故か知らないけど、俺はその令嬢に気に入られてしまったらしくて‥結婚してくれたら買収はしないと言ってきたんだよ』
ああ・・やっぱり、そう言う事だったんだ…あのニュースの通りだった。
『俺は勿論断った。結婚を考えている女性がいるから受け入れられないと。そしたら…社員が路頭に迷ってもいいのかって脅迫されて…俺はその話を受け入れるしかなかったんだ…おまけに鈴音との連絡も一切取らないように言われて、俺はそれに従った。でもある意味、突然連絡を絶ったのは鈴音の為でもあったんだ。その頃から既にマスコミに嗅ぎつけられていて、鈴音の事を好奇心にあふれたマスコミの餌食にしたくなかったから‥。鈴音の性格は知っていたからね…。多分ここまで来る間に俺に連絡殆どいれてこなかったんじゃないかな?」
うん、直人さん。そうだよ…まさにその通りだよ…。私は涙を流しながら画面を食い入るように見つめていた。
『クリスマスイブ…本当に一緒に過ごしたかった‥ホテルだって予約したのに。だから、あのチケットは鈴音にあげるよ。俺からの最初で最後のクリスマスプレゼントだ。実は‥もう来年2月には結婚する事が確定したんだ。』
そんな…!2月に結婚なんて…!
『鈴音、本当にごめん…。愛していたよ、こんなにも誰かを愛したことは今まで無かった位に‥。だから、どうか…幸せになって欲しいと思ってる。』
画面の中の直人さんは…涙を流していた。
「な、直人…さん…」
私も涙でグシャグシャになっていた。
『さよなら、鈴音』
最後にそれだけ言うと、映像は終わった―。
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