第16章 13 部屋に現れたのは

ガチャリ


突然玄関のドアが開き、私の口から心臓が飛び出しそうになった。ま、まさか直人さん?!

慌てて玄関へ向かうと、そこには女性が立っていて部屋に上がりこんだ所だった。


「えっ?!」


誰?!この女性?!


「キャアッ!!」


女性は悲鳴を上げると、余程驚いたのか尻もちを着いて座り込んでしまった。


「だ、だ、誰よっ!あ、貴女は!こんなところで何してるのよっ!」


女性は私を指差すと言った。


「あ…わ、私は加藤鈴音と言う者ですけど…」


「加藤…鈴音…鈴音?!貴女が鈴音なのねっ?!」


女性は立ち上がると私を上から下までジロジロと見た。


「ふ〜ん…顔はまあまあだけど…スタイルは良いようね…?」


まるで私を値踏みするような言い方をする。それにしてもこの女性は一体誰だろう?どこかで見たような気もするけれど、亮平が隠し撮りした女性でないことは確かだ。


「貴女はどなたですか?」


すると女性は言った。


「私?私は中川すみれよ。」


「え…?」


すみれ…直人さんの前の彼女の名前だ。まさか直人さんは彼女ともまだ交際をつづけていたの…?


「あ、あの…失礼を承知で聞きますけど、まさか貴女は直人さんの彼女ですか?」


「は?彼女は貴女のほうでしょう?私はフラれてしまったもの。でも自業自得よね。元々直人に近づいたのは彼がお金持ちだったからだもの。大企業の御曹司ともなれば女なら誰でも目がくらむわよね。貴女だってそうでしょう?」


「え?」


私はその話に耳を疑った。


「何の事ですか?」


するとすみれさんは鼻で笑うかのように言った。


「何言ってるのよ。川口って言ったら、あの大手企業『川口家電』の事じゃないのよ」


「え…?」


嘘だ、そんな話は聞いたことが無い。だって私の知る川口さんは私と同じ新人で引越し会社で重い荷物を運ぶ肉体労働で頑張っている青年だったはず…。


「まさか…貴女、知らなかったの?」


私の顔色が変わったのを見てすみれさんは尋ねてきた。


「は、はい…な、何も知りません。直人さんは引っ越し会社で働いている人だって言う事しか…」


「じゃあ、彼の家柄も家族の事も…何も知らないで付き合っていたわけ?」


「そ、そうです…」


私は頭がズキズキ痛んできた。何故別れたはずのすみれさんがここに現れたのかなんて今となってはどうでも良くなっていた。ただ一つ分かる事は、直人さんはすみれさんには話していた自分の事を私には何一つ話してくれなかった…。私はそれだけの存在だったんだ…。


「ふ〜ん…そう」


すみれさんは腕組みをして私を見た。


「直人は私と付き合って…嫌気が差して貴女には何も語らなかったのかもね?」


「え?」


「直人と知り合ったのは大学4年の春に行われた就職セミナーよ。その時に彼が大企業の御曹司のくせに、親の後継ぎになりたくないから自分で就職活動してる話を聞いて…彼の家柄に惹かれてつきまとって、卒業を機に付き合い出したのよ。なのに彼は結局家の後を継がずに引っ越し会社に入って…挙げ句に絶対後を継ぐつもりはないって言うからこちらも面白くなくて浮気してやったのよ。浮気の理由はお金目当てと思われたくなかったから適当に嘘ついて言ったけど。でも…結局ばれていたのよね。挙げ句に浮気相手からもふられて…」


「…」


私は黙ってすみれさんの話を聞いていた。


「だけど分かったのよ。お金のことは抜きにして、やっぱり直人にかなう男はいないって。ヨリを戻そうと思ったのに、貴女と付き合い始めて…」


すみれさんは私を責めるような目で見る。


「そんなある日、偶然直人が見たことも無い女性と歩いているのを町で見かけたのだけど、何となく直人が迷惑がってるように見えたから、きっと別れ話が進んでるんだろうと思って、マンションを訪ねてみたら荷物が運び出されている真っ最中だったのよ。肝心の直人はいないし、どこへ運ぶか聞いても教えてくれない…。それでも郵便ポストにドアプレートにはまだ『川口』の名前が残されていたから様子を見に来ていたのよ。な、何よッ?!自分でもストーカーみたいな事している自覚はあったわよ?!そしたら今夜訪ねてみたら明かりがついていたから…そしたら貴女がいたのよ…」


すみれさんは私を見ると、項垂れた―。

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