第16章 12 手に入れたものは
揺れる車内の中、私は唇をギュッと噛みしめて椅子に座ってスマホを握りしめていた。亮平は言っていた。直人さんのメールに連絡を入れても電話を掛けても繋がらなかったと。多分亮平だから着信を拒否しているはずでは無いと思う。私は勇気を振り絞って直人さんのアドレスにメールを打った。多分メールがエラーで返って来てしまうのは分っていたから、一言だけメールを打った。
『会いたい』
そして震える指先で送信する。しかし…やはり思った通りメールすぐにエラーで返って来てしまった。
亮平に先に直人さんに連絡を入れて貰って本当に良かったとこの時ばかりは思ってしまった。多分何も分らずにメールを打って送信エラーで返って来てしまったら、私はきっと冷静でいられなかったと思うから。
やっぱり、直人さんのマンションをもう一度訪ねるしかない…!
私は再びスマホを強く握りしめた―。
新小岩駅に着くと、どうしても私は直人さんの姿を探してしまう。ほんの1週間前までは、私のシフトが遅番の時には必ずと言っていいほど迎えに来てくれた直人さん。お帰り、鈴音と言って頭を優しく撫でてくれるあの大きな手が好きだった。
思わず自分の頭にそっと触れて目頭が熱くなって来るのを必死にこらえると駐輪場へと向かった。
ガチャン!
自転車をラックから引き出し、通りまで自転車を押して出てくると自転車に乗って直人さんのマンションへと向かった―。
****
キキーッ
マンションに到着した私はブレーキを掛けて自転車を止めると、降りて直人さんの部屋を見つめた。けれどやはり部屋の明かりは灯されていない。
「やっぱり…いないんだ…」
溜息をつくと、自分の駐輪場スペースへ自転車を止めて直人さんの住んでいたマンションへ足を向けた。
エレベーターホールに行き、上行のボタンを押すとすぐにエレベーターのドアが開いた。
「…」
震える指先で5階のボタンを押すとすぐにドアは開き、スーッとエレベーターは上に上がって行く。
ドキドキドキドキ…
心臓がうるさい位に鳴り、今にも口から飛び出してしまいそうだった。昨夜だって亮平と一緒にこのマンションを訪れているのに、なぜか今の方が緊張している。
ポーン
軽い音が響き渡り、すぐに5階に到着してドアは開いた。エレベータを降りると、かつて直人さんが住んでいた501号室を目指す。
「どうしよう…とうとう来ちゃった…」
今や私の緊張はピークに達していた。ショルダーバッグから直人さんの部屋の鍵を取り出すと、震える手で鍵穴に差し込む。
「お願い…!どうか、開いて…!」
祈るような気持ちでドアノブを持つと、カチャリと回った。良かった…まだこの鍵、使えたんだ…!
キイ~…
ドアを開けると、やはりそこはカーテンすらない真っ暗な無人の部屋だった。途端にどうしようもない位悲しい気持ちが込み上げてくる。昨夜はあまりのショックで気絶してしまったけれども今夜はそうはいかない。だって、私はここで直人さんの痕跡が何か残されていないか、探しに来たのだから―!
手探りで壁のスイッチを探し、パチリと付けると途端に部屋の中は明るくなる。
「お邪魔します…」
小声で言うと靴を脱いで部屋の中に上がった。
「…本当に何も無いんだ…」
ここにおいてあったテーブルもソファも、2人で眠った大きなベッドも…一緒に観た40インチのテレビも…何もかもが綺麗さっぱり消えている。
「こんなに広い部屋だったんだ…」
物がすっかりなくなって反響する自分の声が無性に悲しくなってくる。だけど私にはする事がある。きっと…直人さんは私に何かメッセージを残してくれているはず…!
リビングを捜索したけれども何も残されていなかった。次にキッチンへ行き、引き出しを開けた時、そこに手のひらサイズの封筒が入っていた。
「え…?」
封筒を手に取ると、中に折りたたまれた紙が入っていた。広げてみるとそこにはHPのURLが書かれている。そして…
『パスワードは鈴音の誕生月日』と書かれていた。
「こ、これ・・間違いない。直人さんの字だ…」
思わず目に涙が浮かぶ。
その時…
ガチャリ
玄関でドアが開く音が聞こえた―!
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