第15章 18 恋人宣言

 何…?どうして私のPASMOがポストに入っているの?ひょっとしてお姉ちゃんが…?ううん、そんなはずない。お姉ちゃんはまだ完全に精神疾患が治ったわけじゃないから電車に乗ってここまで来れるはずがないし、第一私のマンションを知らない。となると亮平が…?


私は悩む頭を抱えながら3階の自分のマンションへ向かった―。



ガチャリ


カギを開けて部屋に入り、すっかり真っ暗になってしまった部屋の電気をつけると、すぐにベランダに干してあった洗濯物を取り入れた。


「とりあえず先にシャワー浴びてこよう…」


洗濯物の山から着替えの下着とバスタオル、そして部屋着を持ってバスルームへ移動した。



キュッキュッ


蛇口を捻り、温度調節をすると熱いシャワーを浴びながら思った。


「たまにはお風呂に入りたいな…近くに銭湯あったっけ?」


そして亮平と2人でスーパー銭湯へ行った時の事をふと思い出してしまった。


「ううん、ダメダメ!亮平との思い出は忘れなくちゃ。こんなんじゃ川口さんに失礼だもの。」


だけど…少しずつだけど私の中で川口さんの存在が大きくなってきているのは確かだった。このままお付き合いしていけば…今に亮平に対する思いよりも川口さんに対する思いの方が比重を増してくる気がする。だから私は決心した。


「決めた。お姉ちゃんに…恋人が出来たことを報告しよう。そしたらお姉ちゃんも私を誘うとき、亮平にも声を掛けるのをやめてくれるよね?」


 最後に車から降りる時に私を見つめていた亮平の目が忘れられなかった。私はあの目を知っている。だって…亮平の事が大好きだったから、いつもお姉ちゃんを見つめるあの目を私はずっとそばで見てきたから。一度も私には向けてこなかった熱い視線…。なのに、あの時私に向けていた視線はかつてお姉ちゃんに向けていた視線と同じだった。


『好きだ』


そう、多分…亮平は私に目で、そう訴えていた―。

私は本当は気づいていた。電話口で話していた、亮平が好きになった女性が誰なのかを。知っていたけど無意識に気づかないふりをしていたんだ。

でも、もう遅い。私は川口さんと恋人同士になった。亮平と恋人同士になることは後にも先にも決して無い。だから私の恋を後押ししてくれた亮平に、もう一度お姉ちゃんと恋をやり直してもらうんだ。亮平はお姉ちゃんと、私は川口さんと幸せに…。


 私はスマホを手に取るとお姉ちゃんに電話を掛けた―




****


『もしもし?鈴音ちゃん?どうしたの?』


3コール目でお姉ちゃんが電話に出た。


「お姉ちゃん、今日はごめんね。せっかく誘ってくれたのに行けなくて」


『いいのよ、用事があったんですものね?気にしないで。』


「ねえ…お姉ちゃん。ひょっとして今日…亮平、私のPASMO持って行った?」


『ええ、持って行ったわ。鈴音ちゃんの部屋のポストに入れてくるって言ってたわよ?これが無いと困るだろうからって』


「そう…なんだ。あ、あのね…実は今日お姉ちゃんと会えなかったのは…デートだったからなの」


私はついに言った。


『デート…?まあ!鈴音ちゃん、恋人が出来たの?!』


お姉ちゃんの驚いた声が聞こえる。


「うん。お付き合い始めたばかりなんだけど、すごくいい人なの。優しくて…私の事大切にしてくれる素敵な人」


そう、川口さんは本当に素敵な人だ、私なんかにはもったいない位…。


『そうなのね?素敵な人に出会えて良かったじゃない』


「うん。だから…お姉ちゃんの幸せも祈ってるね?」


『え?ええ…ありがとう。ああ…そうだわ、一応亮平君にお礼の電話入れた方がいいわよ?』


「勿論、そのつもりだよ。それじゃまたね?」


『うん、またね』


ピッ


私はお姉ちゃんとの電話を切ると、深呼吸をして…亮平の電話番号をタップした―。


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