第13章 7 驚きの発言

「それじゃあ何?亮平が私にしている事は・・自分勝手なんじゃないの?私は川口さんと交通事故に遭う前に2人で一緒に食事に行く約束をしていたんだよ?それなのに私がその日、現れなかったから・・・川口さんは私を心配していただけなんだから。」


好意を寄せられていると言う事は言わないで置いた。言えば・・何だかもっとややこしいことになりそうな予感がしたから。

私の言葉に亮平は顔を上げた。


「鈴音?お前・・何言ってるんだ?」


亮平は意外そうな顔をした。それはそうだろう・・・私は亮平が好きで・・嫌われたくは無かったから、亮平の言う事を黙って聞いていたのだ。


「とにかく・・・もうこれ以上・・私には構わないで。もう身体も殆ど良くなったし・・来週からは仕事に復帰する予定だから。幸い・・・事故の後遺症は今のところ出ていないし・・・。」


「何だってっ?!鈴音・・・来週から出社するのか?!無理言うなよ!」


亮平はむきになって言う。


「そんな事言っても・・・仕方ないでしょう?1人暮らしの生活を維持するには・・働かなくちゃいけないんだから。それに職場にも話してあるし。無理の無い範囲で仕事をしてくれればいいって言われてるのよ。亮平は私の事じゃなくて、お姉ちゃんを気にかけてあげてよ。」


「鈴音、明日・・・俺の家へ一緒に行こう。」


突然亮平が突拍子もない事を言ってきた。


「え?・・何言ってるの?」


「言葉通りの意味だ。働かなくちゃ生活が苦しいなら、俺の家へ来ればいい。それに・・大体このマンションにお前を1人置いておいたら・・・またいつあの川口って男が現れるかもしれない。」


まただ・・・また亮平は川口さんを目の敵のような言い方をする。


「亮平・・・待ってよ。前にも言ったでしょう?亮平の家にはお姉ちゃんの事があるから居候出来ないって言ったでしょう?それに川口さんはそれほど悪い人だとは思わないけど?多分・・・本当に私の事を心配してくれていたんだよ・・。」


目を伏せながら言う。

すると亮平が驚くべき事を言った。


「鈴音・・・お前、ひょっとしてあの川口って男の事・・好きなのか?」


「え?ちょ、ちょっと一体何言って・・!」


そこで私は言葉を切った。何故なら亮平がすごく悲し気な顔で私を見ていたから。


「ど、どうしたの・・?亮平・・そんな顔して・・・。」


「鈴音・・・お、俺は・・・。」


その時―


突然亮平のスマホにメールの着信が入って来た。


「あ・・・忍からだ・・。」


ズキッ!


亮平からお姉ちゃんの名前が飛び出してきた。しかし何故か亮平はメールの確認すらしない。


「メール・・・見なくていいの?」


「ああ、今はな。」


「そ、そう?でも・・時間も遅いんじゃないの?私の事に構ってる暇は無いでしょう?」


そして時計を見ると時刻はすでに23時を回っている。


「や、やだ!亮平・・こんな時間じゃないのっ!早く帰りなよ。明日だって仕事じゃないのっ!」


慌てて私は亮平に言った。すると亮平はとんでもない事を言ってきた。


「なら、今夜はここに泊めてくれ。」


「え?ちょ、ちょっと・・何言ってるの?大体ここからなら新宿遠いじゃない!」


「遠いって言ってもほんの数駅だろう?」


「だ、だって着替えは?」


「ああ、それなら買ってきた。」


亮平は傍らに置いてある紙袋をポンポンと叩いた。


「布団が無いじゃない。」


「床で構わないよ。どうせまだ9月だし。布団は必要ない。」


「おじさんとおばさんには何て言うのよ?」


「今夜は残業で遅くなるからカプセルホテルに泊まるって言ってあるんだ。」


駄目だ・・亮平は初めから私のマンションに泊るつもりだったんだ・・。


「ね、ねえ・・・どうして今夜ここに泊る事にしたのよ・・。」


私は頭を押さえながら尋ねた。


「そんなの決まっているだろう?お前が心配だからだ。せめて退院してきたその日位は泊まり込みで様子を見てみようと思っただけだ。」


「・・・。」


私は言葉を失ってしまった―。

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