第13章 6 頼んでもいないのに
亮平が買い物に行き、部屋に1人になると冷蔵庫の整理を始めた。本当は疲れていたから休みたかったけど・・何かしていないと先ほどの川口さんの悲し気な顔が頭に浮かんでしまうから。
次々と古くなった食材を取り出してはビニール袋に入れてきっちり結び、ゴミ袋に捨てる。
やっぱり長い間家を空けていたから結局殆どの食材を捨てる事になってしまった。結局冷蔵庫の中に残されたのは味噌だけだった。それにしても・・・調味料迄駄目になっていたなんて思いもしなった。
冷凍庫の中は霜だらけになっていたし・・・。
「ふう・・。」
冷蔵庫の中身の整理が終わると、再び先ほどの出来事が思い出された。悲しげな顔をして私を見ていた川口さんの表情がどうしても頭から離れなかった。
「でも・・・どうして・・?」
どうして川口さんはここにやって来たんだろう?ひょっとして・・私の事を好きなのだろうか?
ううん、きっと・・・。
「間違いなく、私の事を好きなんだ・・。」
だけど・・川口さんは私のどこが良かったのだろう?お姉ちゃんのように美人でもないし、女らしくも無い。それなのに・・。
その時・・・。
ピンポーン
部屋のチャイムが鳴った。
ドアアイで確認すると、そこに立っていたのはやはり亮平だった。両手にレジ袋を下げている。鍵を開けてドアを開くと、亮平は黙って上がり込んできてテーブルの上にレジ袋を置いた。そして床の上にある起きなゴミ袋をチラリと見ると私の方を振り向いた。
「冷蔵庫の中を片付けていたのか?」
「うん・・そうだよ。」
「全く・・・それ位なら俺がやるから鈴音は休んでいればいいのに・・。」
そして次から次へとテーブルの上に買ってきたものを並べる。
麦茶にコーラ、野菜ジュースにヨーグルト、ファミリーボックスのアイス・・・。
「鈴音、どれにする?残りは冷蔵庫に全部入れるから。」
「えっと・・それじゃアイスにしようかな・・・。」
「分かった。」
亮平は紙の箱を開封すると、カップに入ったバニラアイスを取り出して私の前に置くと、もう一つ取り出した。
「亮平も食べるの?」
「ああ。」
そして亮平は麦茶以外を全部レジ袋に戻すとキッチンへ行き、冷蔵庫にしまうと部屋にある食器棚から2本のスプーンを取り出すと、再び床に座った。
「ほら、スプーン。」
「うん・・・ありがとう。」
亮平はアイスの蓋を外すと、早速食べ始めた。
「うん、旨いな。」
「頂きます。」
私もふたを外してスプーンですくって口に入れてみる。途端に冷たくて甘い味とバニラの香りが広がる。
「ほんとだ・・美味しいね。」
「だろう?」
亮平は満足そうに笑みを浮かべた。それにしても・・・。
「亮平・・・買い物に行ってから・・随分遅かったね?」
時計を見るともうすぐ夜の10時になろうとしている。
「ああ・・ちょとな。野暮用があったから。」
「野暮用・・?それってどんな用なの?」
「・・・川口って男のマンションに行ってた。」
「え?!な、何で?!」
亮平はいつの間にかアイスを食べ終えていたようで蓋を締めながら言った。
「鈴音に近付くなって釘を刺しに行ったんだよ。あいつ・・・お前を連れて俺がマンションに入る時、すっげー目で俺を睨んでいたからな。」
「だからって・・・。何もわざわざ言いに行く必要は無いでしょう?」
どうしてそんなに勝手な真似をするのだろう?
「何でだよ?お前・・あいつと話していた時、すごく困った顔していたじゃないか!あいつ・・隣のマンションに住んでいるからって・・図々しくも・・。鈴音は退院してきばかりだって言うのに・・・。」
何故か亮平はイライラした様子で話している。
「あれは別に困っていたんじゃなくて、戸惑っていただけだってば。」
「あいつはお前の意見なんか無視して付きまとっているストーカーみたいなもんだ。何でそれが分からないんだ。」
私の意見を無視して・・・?それなら亮平が今やっている事は何だって言うの?勝手に川口さんのマンションへ行って・・釘を刺しに行くなんて・・。
亮平こそ・・何考えているのよ・・・。お姉ちゃんという恋人がいるくせに・・私に構ったりして・・。
私は目の前に座る亮平をじっと見ると口を開いた―。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます