第13章 8 2人で過ごす夜

 その後―


 私は亮平にシャワーを浴びて来るように言うと、亮平の布団の準備を始めた。

別に布団なんかいらないと亮平は言っていたけど、堅い床の上に寝かせる訳にはいかない。幸い、私の部屋にある1人掛け用のソファは広げるとマットレスになる。これがあれば敷布団の問題は解決。それに予備として持ってきていたタオルケットがあるから、これを亮平に使って貰おう。



「鈴音、シャワーありがとうな。」


その時丁度シャワーを浴びてきた亮平がTシャツにスウェットのズボン姿で濡れた髪をタオルでクシャクシャと拭きながら声を掛けてきた。


「あ、あがったんだね。」


「ああ。それで・・何してるんだ?」


「何してるって・・・亮平の布団を用意しているんだけど?」


「別に布団なんかいらないって言ってるだろう?」


「そんな訳いかないでしょう・・それにしても良かったよ・・このソファがマットレスになるから。はい、これ持って亮平はロフトに上がって。」


私は両手に抱える程の大きなソファを指さすと亮平に言った。


「お、おい!こんな大きな物持って梯子なんか登れるかよ!」


亮平が文句を言ってくる。


「だって下で寝るの狭いでしょう?テーブルだってあるし・・・。」


「テーブルなんか廊下にでも出しておけばいいだろう?」


廊下・・・別に廊下って言えるほど広くはないんだけど。廊下にテーブルを出したら玄関が塞がれてしまうし。


「分ったよ・・それじゃ玄関にテーブル出せばいいんでしょう?」


「ああ。でも・・・その前にお前もシャワー浴びて来てしまえよ。」


亮平はまるで自分の部屋のような態度を取っている。


「はいはい、分りました。」


そして私は着がえを持つとバスルームへと向かった。


久々に使うバスルーム。狭くて使いにくいけど、懐かしさを感じた。・・・そう言えば亮平・・狭くて使いにくく無かったかなぁ・・・?



それから約30分後―


「ふぅ~・・・」


シャワーを浴びて、ニットの半そでとハーフパンツの部屋着に着替えた後、髪をドライヤーで乾かし手てから私は部屋へ戻った。テーブルは既に廊下に出されていて、マットレスの上では亮平が何だか深刻そうな顔でスマホをいじっている。

お姉ちゃとメールのやりとりでもしてるのかな・・?

キッチンでコップに水を入れて飲んでいると、亮平が私の姿に気付いて声を掛けてきた。


「鈴音、シャワー浴びてきたのか?」


「うん。亮平・・お姉ちゃんとメールのやりとりしていたの?」


「あ?ああ・・まあな。」


何故か歯切れが悪そうに返事する。そっか・・私余計な事聞いてしまったかもしれない。


「ごめんね、亮平。」


「え?何が?」


「お姉ちゃんと亮平の事なのに・・余計な事聞いちゃって。」


「いや、別に・・気にするな。それよりお前・・もう寝たほうがいいぞ?退院したばかりなんだし・・。」


亮平に言われて時計を見ると、そろそろ深夜0時になろうとしていた。


「本当だ・・・。アフ・・・。」


時計を見た途端、急激な眠気が襲って来て欠伸が出てしまった。


「ほらみろ、早くベッドに入れよ。俺が電気消すから。」


「うん・・。」


ベッドに潜り込むと亮平が立ち上って壁のスイッチに触れながら言った。


「それじゃ電気消すぞ。」


「うん・・。」


カチッ


電気を消す音が聞こえ、部屋の中は常夜灯のみの薄暗い部屋になった。私は急激な眠気の中、亮平に話しかけた。



「ねえ・・亮平・・。」


「何だ?」


マットレスに亮平が寝っ転がる気配を感じた。


「明日・・・何時に家・・・出る?」


「ん?そうだな・・・8時には出るか・・。」


「そう・・なら7時には起きなくちゃ・・ね・・朝御飯・・・何が食べたい・・?」


「!」


その時・・何故か亮平の息を飲む気配を感じた。


「ば・・馬鹿だな・・・俺の朝飯の事なんか気にするな。」


「でも・・・。」


「いいから、お前は・・朝も寝てろ。俺に合わせて起きる必要はないから・・。」


「うん・・。」


やがて、ますます眠くなり・・亮平の声がすごく遠くに感じ始めた。


「鈴音・・・寝たのか・・?」


まだ・・起きてるよ・・・。

だけど声にはならなかった。


「鈴音・・俺・・・実は・・忍と・・・。」


亮平の言葉は・・最後まで聞き取れなかった―。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る