第2章 7 酔いと満月

 店を出た所で、私はフラフラとお店の壁に寄りかかってしまった。何だか足元はおぼつかないし、頭はグルグル回っているような感覚だ。


「ほら、しっかりしろ。家に帰るぞ。」


亮平に左腕を掴まれて、立たされた私はそのままふらりと亮平の胸に倒れ込んでしまった。そんな私を支えながら亮平は言う。


「全く・・酒が弱いくせに、無理に飲もうとするから・・・。」


頭の上でブツブツと亮平の文句が聞こえて来る。それを聞いた私は何故か少しイラッとして、言い返した。


「何よお~元はと言えば亮平が悪いんでしょ~?」


「何で俺が悪いんだよ。ほら、歩くぞ。」


亮平に肩を支えられ、もたれかかる体勢で歩きながら私は口を曲げて言った。


「亮平が・・・場の雰囲気を・・・壊すような・・態度を取るから・・じゃない・・。」


「俺はな、常に自分の気持ちに正直に生きたいんだよ。今夜の合コンだって無理矢理連れて来られてんだぞ?俺はこんな所来たくなかったのに・・あいつ等が・・。」


「だけど~来ちゃったんだから・・観念して少しは盛り上げようって気にはなれないの~?」


私はずいっと亮平の前に顔を付き出しながら言う。


「おい、鈴音・・・。お前、今日は酔い過ぎだ。・・・おかしいな・・?いつもならこんなには・・・。まさか・・。」


亮平が先程から何やらブツブツ呟いている。


「何さっきから・・・ブツブツ言ってるのよ・・・。」


駄目だ、頭が回って真っすぐ歩けない。


「おいっ!鈴音、しっかり歩けってっ!」


亮平に叱責されるが・・・無理。だって何だか身体中から力が抜けていく感じがするんだもの。


「くそっ・・・!全く、これじゃ電車で帰るのは無理だ。仕方ない・・・タクシーで帰るか・・。」


亮平は私を支えたまま、ぐるりと向きを変えて何処かへ歩いてゆく。


「ねえ・・・何処行くのよ・・・・?」


「タクシー乗り場に行くんだよ。」


そこでガクンと私は崩れ落ちてしまった。あれ・・変だな・・足腰立てないや・・・。


「おいっ!鈴音っ!立てってばっ!」


「らめ(駄目)・・立てない・・。」


「あーっ、もうっ!」


亮平が喚いている・・・次の瞬間、フワリと身体が浮いた。え・・?何・・?

気付けば亮平は私を背中におぶって歩いていた。


「いいか・・・鈴音・・。絶っ対に吐くなよっ!吐いたら・・承知しないからな?」


「分かってるってば~大丈夫・・・吐かないから・・・。うっ!」


「おい!おまえなあ・・・っ!」


亮平が焦る声が聞こえる。


「アハハハ・・。冗談だってばあ~・・・。」


フフフ・・・楽しいなあ・・。こんな風に2人で話をするのは久しぶりな気がする。


「おい、鈴音。」


不意に亮平が言った。


「な~に・・・。」


「・・・忍さんには黙っていてくれよ?俺が合コン参加していた事。」


「何でよ。」


「ばっ・・・馬鹿っ!そんな事決まっているだろう?!お、俺は忍さんが好きなんだから・・・好きな女性に軽い男だって思われたくないんだよっ!」


焦る声で言う亮平。


「ふ~ん・・・別にさ・・・合コン出たくらいで・・軽い男だって・・見られないんじゃない・・かなあ・・?」


亮平の背中に顔を押し付けて私は言う。・・・さっきまで楽しい気分だったのに、なんだか急に興ざめ?空しい気持ちになって来た。亮平・・・お姉ちゃんにはもうすぐ結婚する相手がいるのに・・・まだ諦めていないのかなあ・・。だけど、私は亮平が好き。そしてお姉ちゃんの事も好き・・・。だからお姉ちゃんの幸せになる邪魔をしようとする亮平は・・・。


「えい。」


プチッ!


「いって~えっ!おい!鈴音っ!お前・・今俺の髪の毛抜いただろう?!」


亮平が喚いた。


「さあね~。」


プチッ!


「いった!!おいっ!やっぱり抜いてるじゃないかっ!もう捨てていくぞっ!」


「いやだよ~だっ!」


私は亮平の首にしがみ付いた。


「ぐっ!よ、よせっ!苦しいっ!」


「アハハハハッ」


今夜は本当に何だかとっても楽しいな~。


そして私は亮平におんぶされたまま、夜空の満月を見上げ・・意識を無くした―。

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