第2章 6 合コン

 「「「「「「かんぱ~い!」」」」」」


私達6人は男女お互い向かい合って座り、全員生ビールで乾杯をした。


「いや~それにしても驚きだな、まさか青葉と・・・えっと・・?」


幹事の田代さんが私を見ながら言う。


「加藤です。加藤鈴音です。」


「そうそう、加藤さんが幼馴染だったとはな~しかも、こんな可愛い女の子なんだからな~。」


田代さんはお酒を飲み始めたばかりなのに妙な事を言う。


「いやいやいや、別に可愛くありませんって、普通ですから。」


手を振りながら愛想笑いをするが、私の真向いに座る亮平は無言でビールを飲んでいる。その姿はつまらなそうで、いかにも無理矢理連れて来られた感が滲み出ている。


「所で、君達は全員旅行会社に勤めていたんだよね?」


もう1人の参加者、確か名前は・・・山崎さんが言う。


「はい、私達全員『ツアージャパン』の新入社員です。確か皆さんは銀行員でしたよね?」


萌ちゃんは目をキラキラさせながら言う。そうなのだ、実は萌ちゃんは今日の合コンメンバーがエリート銀行員と言う事を聞いて、気合を入れてこの合コンに参加してきたのだが・・・・肝心の亮平はずっと仏頂面をしている為、いまいち雰囲気が盛り上がらない。よし、かくなる上は・・・。


「はーい!皆さんっ!どんどん飲みましょうよ~。ここはアルコールフリーのお店なんですから飲まなくちゃ損ですよっ!」


言いながら私は皆に適当にお酒を注ぎながら言った。


「おおっ!流石は気配りの鈴音!」


女性幹事でありながら、酒豪でしょっぱなから生ビールを1本空けてしまった真理ちゃんが手を叩く。


「鈴音ちゃん、私にはグレープフルーツサワー頼んで。」


「了解ッ!」


萌ちゃんのリクエストに応えて手元のタブレットで注文する私。


「他に何か頼む人いませんか~。」


私の掛け声に、皆次々とオーダーするけど何故か亮平だけは注文しない。


「あれ?亮平は注文しないの~?」


「ああ、俺はいい。皆で勝手にやってくれ。俺は別にここに来たくて来た訳じゃないんだから。」


言いながら、グイッとビールを飲む。


「「「「「・・・・・。」」」」」


一気に場が凍り付く・・・。ま、まずい!このままではっ!


「お、おい。青葉・・・。」


田代さんがオロオロし出した。かくなる上は・・・。


「はーい!皆様ご注目っ!」


私は大声をあげた。


「うわっ!びっくりしたっ!」


真理ちゃんが慌てた声をあげる。


「私が皆様の為にマジックを披露したいと思いまーす!」


実は私はマジックショーを見るのが好きで、簡単なマジックならその場で出来るのだ。


「はい、はい、どなたか500円玉を拝借できませんか?」


私が皆を見渡す。


「俺持ってるよ。」


山崎さんが500円玉を取り出した。


「これはこれはありがとうございます。」


私は大袈裟に受け取ると頭を下げた。


「さて、皆さん。それでは今か私の手をこの500円が通り抜けますのでご覧ください。」


言いながら私は左手を握りしめ、手の甲を上に向けると摘まんだ500円球を縦に持ち。ぐりぐりとこすり付け、徐々につまんだ500円玉を見えないように隠していく。


「・・・。」


そしてゆっくり右手を開いてゆくと・・・。


「ああっ!コインが消えているっ?!」


山崎さんが声をあげる。


「さあ・・・見ていてくださいよ・・。」


今度はゆっくり左手を開くと、コインは手のひらに収まっている。


「「「「おお~っ!すごいっ!」」」」


亮平以外の4人の声が綺麗にハモる。皆の拍手が鳴り響き、先程の決まづい雰囲気はすっかり消えた。




「ほら、飲んで飲んで。加藤さん。」


「は、はあ・・・・ど、どうも・・・。」


正直、私はお酒は好きだがあまり強くはない。気付けば田代さんが私の隣に座ってビールをグラスに注いでいた。


「ありがとうございます・・・。」


ボ~ッとした頭でお酒を飲んでいると、突然スルリと肩に腕が回され、耳元で囁かれた。


「ねえねえ・・・この後、2人で抜け出さない。面白い所へ行こうよ。」


フエ?面白い所・・・?何だか楽しそう・・・。


「いいですねえ・・・行きましょうか・・・?」


トロンとした目で返事をしたその時・・・。


「おいっ!帰るぞ、鈴音っ!」


亮平が立ち上り、私の傍へ来ると田代さんの腕を払い、イライラした調子で言った。


「田代、こいつは俺の大事な女なんだ。勝手に触るな、ほら行くぞっ!」


無理矢理立たされ、なすすべもなく連れ去られる私。振り返ると、そんな私達の姿を残りのメンバーはポカンとした顔で見つめていた―。


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