童話

「ああ取り返しがつかない」

ひまわりの種は思いました。

ひまわりの種は、根を伸ばし、芽を吹いたところでした。

あたりを見回してみると、誰もいません。


本当に芽を出すはずの、春をうっかり寝過ごしてしまったひまわりの種は、夏が過ぎるころになって、秋風を春と勘違いして、芽を出してしまったのでした。

このままいくら葉を伸ばしても、すぐに冬になってしまうことは明らかでした。


「ただ枯れるためだけに芽を出したのか」

ひまわりは、思いました。

「なんの意味もない」


でも、ひまわりは思いました。

「まだ、枯れてない」

枯れることは分かっているけれど、実ることがないことは分かっているけれど、実るどころか、花も咲かせられない、蕾さえつくか怪しいけれど。

ちゃんと芽を出した花たちが、大輪の花を咲かせ、結実させて、枯れてゆく、そんな季節に芽吹いたひまわりは、小さい小さい葉っぱの姿で、こう思いました。

「まだ、枯れてない」




九月の向日葵 完

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九月の向日葵 桜木覚 @sakuragikaku

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