「花散る季節に キミと」

物語は、高校入学から始まる。


入学式の後、春馬有生(はるまゆうき)に、突然現れた 風宮アヲイ(かざみやあおい)が命令する。 

「私をモデルに、最高の絵を描きなさい」


風宮アヲイはティーンズ雑誌のカリスマモデル。

写真なら、何千枚も撮られてきた、肖像画のモデルとしての自分の実力を発揮したい。その絵師に、”あなたを任命します”。


いきなりの高飛車な態度に反発する有生。

彼は、小学生の時、絵画コンクールで優勝し、神童と持て囃された時期があった。

周囲の大人、特に両親からの”優しい脅迫”に、彼の精神は追い詰められていった。

彼が思ったような絵を描けなくなるのと同時に、母親が病気に倒れ、有生の絵が元の輝きを取り戻さないことを嘆きながら亡くなったことで、有生は完全に絵筆が取れなくなってしまっていた。


波乱の幕開けになった有生の高校生活。

幼馴染の市原桜、隣の席に居合わせた元ヤンの相模勇気に、風宮アヲイを加えた4人組が、何気ない日常の、小さな事件を解決していくうちに、絆を育んでゆく。

最初の悪印象から一転して、風宮アヲイに思いを寄せるようになる春馬有生。

その思いに突き動かされて、彼は再び絵筆を取り、風宮アヲイの肖像画を描き始める。


ところが肖像画が完成間近になって、風宮アヲイと、アイドル滝沢潤の熱愛が報道される。

報道陣が押し掛ける中、なんの屈託もなく、肖像画の完成を促すアヲイに、”やっぱり誰も自分のことなど興味がない。愛されるのは自分の絵だけなのだ”と有生は絶望する。

そんな有生を見つめ続ける市原桜の思い。桜を思う勇気。

4人の感情が交錯する中、滝沢潤が転入してきて、学校は大騒ぎに。

複雑な思いを抱えながら、滝沢とも友情を育むことになる有生。


彼は、一度は破り捨てた肖像画を再び描き始める。

報われることがなくても、かまわない。

無償の思いがこめられた作品は最高の出来となり、有生も自分自身の中にある、消し様のない絵画への情熱を認識し、画家の道を目指すことを誓う。


その直前、風宮アヲイは入院する。

簡単な手術で、すぐに退院する、とだけ言い残した彼女の病室へ、有生が肖像画を届けると、すでに彼女の姿はなかった。幼少期から彼女を蝕んできた病が、彼女の命を奪っていたのだ。


葬儀の後、”恋人”の滝沢潤に肖像画を渡そうとすると、意外な事実を聞かされる。


「僕は受け取れない。だって、振られたんだもの」


熱愛報道の直前、滝沢潤が風宮アヲイに交際申し込みをしていたのは本当だった。

だが、アヲイは、それを拒んだ。

拒んだが、「交際しているふりをしてほしい」と、逆に頼まれたという。


滝沢は苦悩しながら、その申し入れを受けた。アイドル生命が絶たれる危険を顧みず、アヲイの願いを叶えようとしたのだ。

滝沢は、アヲイから1通の手紙を預かっていた。


「そこまでしたのに、俺にくれたのはメッセンジャーボーイの役割だけだよ。ひどい女だよな」


言葉とは裏腹に、滝沢の、彼女への深い思いを感じる有生。


手紙には、アヲイが、病状の悪化で、ずっと有生と一緒にいられないことを悟り、静かに消えていくために、滝沢潤を交際相手だと嘘をついたこと、が語られていた。


”わがままでごめんね”


そうやって、消えていこうとしたのだけれど、どうしても耐えきれなくて、こうして、手紙を残します。


”あの時から、ずっと好きだったよ”


手紙を抱きしめて立ちすくむ有生の前に、満開を迎えた桜の花びらが、一斉に散っていった。

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