高梨の恋
「西田先生の奥さんが亡くなった時よ」
「あ、そうそう」
女子二人は納得したようだ。
西田というのは、我々の担任だ。
「そういえば、小峠から、香典の募集が来てたな。500円振り込んだよ」
学級委員でもなんでもなかった小峠が、なんでそんな立場を買って出たのか、理解していなかった。その後の礼状などもなかった気がするので、今だったら詐欺を疑うところだ。
その時の、小峠の手紙から、不思議なにおいがしてきたのを覚えている。
文体が、「自慢」していたのだ。胸を張っているというか。
担任の奥様が亡くなったので、クラスとして香典を出すから、協力してくれ、
ただそれだけの事務連絡なのだが、俺は、細かい”てにをは”から、その文章を書いた人物の心情を嗅ぎつけることができる。
なんで、「自慢」してるんだ?と、違和感を感じた。
考えれば、高梨葵は学級委員だった。担任の弔事の連絡が入って不思議はない立場だし、その時、小峠が付き合っていたとすれば、相談に乗ったろう。高梨葵の代わりに「彼氏」として、香典の取りまとめをしていたとすれば、あの文章からにおってきた”胸を張る感じ”も理解できる。
「大したもんだな。高校3年間アタックし続けて、卒業してから、付き合うまで持ってったんだ」
素直に褒めた。そこまで”好き”という想いに忠実だった小峠に、感心した。
俺にはできないことだ。
「だよねー」
宮園祥子がしみじみという。
「私もそんなに夢中になってもらえたらなー」
片瀬玲子がツッコむ。
「ふつー、そんなふうに押し切られたらそのまま結婚しちゃうもんだけどね」
「うまくいかないもんだねー」
「葵って彼氏と続かないんだよね」
片瀬玲子はいろいろ知ってるらしい。
「1年の時は啓斗でしょ?須藤ちゃんがストーカーだったのは別として、2年の時は上田くんとか坂下くんとかさ」
錦織啓斗との噂は、結構本格的だったんだな。
というか、何やってんだ須藤。
「ああ、高梨な」
山崎健二が割って入ってきた。
「あいつさ、デート断んないんだよ。俺も何人か知ってる。誘われると、映画とか遊園地とか行くんだけど、そこで終わり。ごめんなさいするんだよね。その間1ヶ月とかあるから、1ヶ月付き合ったと言っちゃうけど、実際は1回遊びに行っただけ」
「健二も?」
片瀬に言われて、山崎健二が目を白黒させていた。
思った以上にモテてたんだ。
「改めて小峠くんすごいね」
「3年間、それやられ続けて、でも諦めなかったんだよね」
「よく心折れなかったね」
小峠隆太は父親の法律事務所を継いだはずだ。検索すると、連絡先がわかる。それなのに、同窓会の連絡をつけようとした、誰も、彼に連絡できなかったそうだ。
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