もう一つの葬儀
ある程度、傲慢になることが責任者の義務である。
末端の都合まで優先していると、結局物事が動かず全体に迷惑をかける。
思いやりに見えるものが、害悪だったりするから難しい。
ということで、開き直った。
誰も来れなければ、それでいい、俺が一人飲みして終わらせる!と、いうことで決め打ちしたら、なんだかんだで10人ほど集まった。
女性陣の方が積極的だった。主婦はイベントに飢えている(笑)
街ならではの雰囲気のある場所を案内して、地場の酒を飲ませ、静かなバーへ。
観光情報ではわからない、とっておきの地元をコーディネートした。
バーで隣になったのが宮園祥子だった。
彼女は北の方で養護教諭をしていた。週末、実家に帰る口実にクラス会を使っていた。実際は実家を飛び越して、さらに遠征になる距離なのに。
遠いところまで大変だな、という話を振ると、思いがけず「懐かしいんだ」という返事が返ってきた。
養護教諭の資格を取るために、実はこちらの県内の学校に通い、教育実習は”ここから”歩いていける学校だったという。
「まじかよ、宮園すげえな」
元の苗字で呼ばれるのが嬉しいらしく、宮園祥子は、かわいらしく笑った。
「あたしさ、結婚するまで地元で働いてたじゃん?だから、しばらく高梨さんのことわかってたんだ」
また高梨葵の話が出た。
「わかってたって?」
「最後は確か28の時だったけど、その時は、教育委員会かな?役職付きだったんでびっくりしたの。同期の出世頭じゃないかな」
県内の教員の異動は新聞発表される。
「結局、小峠くんとは結婚しなかったんだね。ずっと独身だったみたいだし」
ちょっと胸がちくんとしたが、時が巻き戻るわけではない。その時の俺は、高梨葵への感情の自覚はなく、ただ、舞台の上で輝くことに夢中になっていた。
ちゃんと恋愛の感情もあった。年上の女優の卵を好きだと思っていた。でも、それが恋でも愛でもなく、ただの憧れでしかなかったのは、その女優の卵の名前を忘れていることから明らかだ。
「小峠と付き合ってたんだ」
「だと思うよ。ていうか、小峠くん、高梨さん大好きだったじゃん」
小峠があのサークルの幹事みたいなことをやってたのは、高梨目当てだったのか。
「ずっと相手にされてなかったのは知ってたんだよね。でも、大学の時かな?なんかで卒業生が集まった時があったんだよね。そしたら小峠くんと高梨さんずっと一緒にいるから、あれ?って思って」
「あ、それ、お葬式の時でしょ」
片瀬玲子が口を挟んできた。
「葬式?」
穏やかではない。
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