ある顛末
「中学生の時もな、お前、ヤンチャな奴らに目をつけられて、孤立しがちだったって?でも、連中があんまり頭に乗って、授業中にもちょっかい出して来たら、お前、椅子でぶん殴ったんだって?」
声が出なかった。なぜ、お前がそれを知っているんだ、錦織。
「4、5人相手に暴れたんだろ?男はそうじゃないとな」
中学の時に、いじめのような状態を受けていた。
スクールカーストの上位連中にへつらわなかったという、くだらない原因で、俺と話をした奴らに脅し透かし嫌味、という嫌がらせを受けた。直接自分に何かをされたり言われた訳ではないから、大人に訴えようのない、陰湿なものだった。
だが、奴らの計算違いは、俺が見かけのような優しいキャラではなかったことだ。
何も反撃してこないと思ったのだろう。カースト上位に媚びる太鼓持ちが、消しゴムやら紙玉やらを、教師の目を盗んでぶつけてくるようになった。ある時、一人が、濡れた雑巾を机の下からぶつけて来た。コントロールが悪く、雑巾は、俺の机にぶつかり、落ちた。そいつは、それを拾いに来た。そこで、その雑巾を俺になすりつけようとした。
キレた。
机の下にあった、そいつの顔面を蹴り付けると、そいつは前の席の奴を巻き添えに、もんどり打って倒れた。前の席の奴には、はた迷惑だった。
何しやがる、この野郎、と叫ぶそいつの上に、机をぶっ倒した。
それを見て、”てめえ”、と、カースト上位の一人が殴りかかって来た。
市内の不良グループで、ケンカが強いことでカースト上位にいた奴だ。こそこそ逃げたら自分の立場が危ういから、向かって来た。
そいつの横面を椅子を持って殴りつけた。
いわゆる「良い子」に見えていた俺が暴れたことで、教師が呆気に取られていたのを覚えている。
我に返った教師が「やめろ」と叫ぶと、周りの生徒が、俺とカースト上位を取り押さえに来た。
4、5人相手の大立ち回りというのは盛りすぎだが、そういう騒ぎは確かにあった。
カースト上位やその取り巻きは、この騒ぎの取調べで、教師たちにいじめ行為の全容を知られ、俺に手を出してくることは無くなった。だが、一方で、暴れた俺も、遠巻きにされる事が増えて、状況はあまり変わらなかった。やばい奴と思われたのだろうから、仕方ない。
それよりも、その時、教師たちから「お前にも悪いところがあるんだからな」と言われたことは忘れない。30年後の今も、世間では「誹謗中傷される方が悪い」という意見は根強いのだから、当事者を相対化して両成敗に持ち込むことは、当時は尚更しかたなかったことなのだろう。
だがそれは、教師という存在が、善悪の判断を下せないほどに愚かなのだという証拠にしかならなかった。それ以降、教師や学校に何も期待を持たなくなったのは、余談である。
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