アジャスト

同窓会ではあまりするものじゃないと言われているが、どうしても仕事の話は出る。

なぜか、会社員をやっている奴らは、大体、部長だった。

係長止まりの奴はいないし、役員に登った奴もいない。

そういう連中は、同窓会に来ないのかもしれないが。


俺も「今何をやってる」と聞かれた。

言葉に詰まった。


「んー、無職みたいなもん」


スベった。


「フリーランスのクリエイター、って言えばいいか?」と、笑った。

それならかっこいいじゃん、ひとりで回してるなんてすげえな、と言われた。

すごくもなんともない。ただ、流れの中で、フリーで身を処すことになっただけで、確固たる意思があって、一人で仕事をしているわけじゃない。

組織で、それもそれなりに大きな組織で、人と人をつなぎ、回す地位にある奴の方が、すごいに決まってる。


新しいことや、自由なことは、いつでもできる。

守っていくこと、縛りがあるものを動かすことは、誰にでもできることじゃない。


そんな話を、数人と繰り返したと思う。

だんだん酔いが回って来ていた。


タレントでもやっているかと思った錦織は、意外にも自営で一人商社をやってるという。

今の姿は、だいぶ恰幅が良くなってしまっていて、言われてみれば、怪しげなブローカーに見えなくはない。

「ちょっと太りすぎじゃねえか?女子ががっかりしてるじゃねえか」

クチさがない奴は、実家の工務店を継いだという。

個人でやってる人間は、社交辞令が下手だ。

「いいんだよ」

錦織が言う。

「痩せるとモテちゃうんだよ」


「自覚してんじゃねえよ」

俺がツッコんだ。

酔眼で、錦織が俺を見た。

「誰にでもモテりゃいいってもんじゃない」

「まあ、そりゃそうだけど、、羨ましい悩みだな」

「俺はよお」

錦織の声が大きくなった。

「ガッコの時から、大した奴だと思ってたんだよ、お前をよ」


え?俺?

ていうか、なんだその話の流れは。


「あの頃のまんま、大人になってるよな、お前。お前はお前のままなのに、お前のまま、社会とアジャストして、生きてる。すげえよ、今でも、お前はよぉ」


褒めてくれるのは嬉しいが、すまん、理解がついていかない。

そんな話、初めて聞いたぞ。30年前、何があった?

「いや、すごくはない。別に何かできてるわけでもない。仕事がなくなりゃ、即無職だ。そんな風来坊の、なにがすげえのさ」

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