第21話テイマーの日常


宿に着くとまず爺さんに許可を取りトレーニングを再開させた。ライズとの勝負にてトレーニングする事の大切さを思い出したからだ。


あまり魔物が居ない所迄移動して剣を振るう、一振り一振り丁寧にそして鋭く、先程のライズを思い浮かべて一心不乱に剣を振るった。


腕が疲れると今度はランニングをし脚力を鍛える。


 ルシウスが走っているとホース系の馬達もルシウスの後ろを追い立てるかの様に追走した。


(俺狙われてる? かなりの迫力だな……)


 一度後ろを確認して少し怖くなると、辞めるに辞められず三十分程走って力尽きた。芝生の上に大の字で横になると、ルシウスを追い越したホース系の馬達はルシウスに歩みより中々良い走りだったぞと言うように鼻を鳴らした。


「はぁ……疲れたなぁ、お前達も大概だぞ!クロに果物あげなくちゃな」


(ライズと引き分けた事がこんなにも悔しいとは思わなかったな)


 魔玉から黒を出すとプイッと顔を背けて知らん顔をしているそこで秘密兵器の果物だ。ポーチから果物を出すと一度視線をルシウスに向けた後にまた視線を背ける。


(しょうがないなぁ……でも食欲には負けるだろう)


 赤い実の方を一つ口に入れると果汁が口の中に広がる汗をかいた後の果汁は格別だった。


「しかし喉が渇いたらやっぱり果物だよなぁ折角クロの為に買ってきたのに……食べないならしょうがないか……」


 ルシウスは下手な演技でクロを挑発し二つ目も口に入れた。クロとは何度も目を合わせるが我慢している様だ。その我慢もルシウスが三つ目を口に入れようとした時に限界を迎えた。


「にゃっ!」


 三つ目を口に入れようとした時クロは手にある実目掛けて突っ込んでいき実を強奪した。


「にゃ! にゃ!」


 勝鬨を上げるクロを見て可笑しくなってしまった。


「あはは、クロは本当に見てて飽きないよなぁ」


 クロは一つ口に入れて頬張ると美味しかったのかその場で興奮してジャンプしていた。興奮が収まらないけど食べたいとなったクロはジャンプしながらルシウスに近づき残った実を一つ、また一つと五分程で平らげてしまったのだ。


「ゆっくり食べないとダメだぞ?」


 早食いは体に悪いと思ったがクロが苛々したんだからしょうがないだろ? と視線で訴えて来たのでとっておきを出す事にした。


「これ俺が半分食べるから取り敢えず待っていてくれよ?」


 もう一つポーチから取り出して、まずルシウスが食べ始める。その姿を見て我慢しているクロはとても歯痒そうにしていた。


「ちゃんとあげるからそんな顔で見るなよぉ」


 半分程食べ終わるとすぐに果物を差し出した。すると無我夢中で果物を頬張るその顔はとても満足していた。果物を食べ終えると眠くなったのか、ルシウスの膝の上で丸まって眠りについた。今日色々な事があったルシウスもクロの体温が心地よく、そのまま眠ってしまった。



 頬が何かくすぐったいなと思い目を開けるとクロがルシウスを舐めていた。気温が寝る前よりも少し下がっている事に気づくと結構寝てしまった事に気づいた。


「結構寝ちゃったんだな……汗を流さないとな」


 知らぬうちに横になった体を起こし水を浴びる事にした。爺さんに布を借りるとそのまま水浴びが出来る所迄移動して水浴びを始めた。


「あぁ……汗を流すと気持ち良いなぁ、クロも水浴びするか?」


 ルシウスの一声にクロは逃げようとしたがそのまま捕まってしまった。


「にゃ?! にゃ?!」


 辞めて辞めてと抵抗するクロを余所にルシウスはクロに水をかけた。


「ちゃんと綺麗にしないとダメだろ? お利口にしてたらまた果物を買ってきてやるからさ」


(食べ物があると素早いのに、今は早くなかったな……食べ物で身体能力が上がるのか?)


 食べ物で身体能力が上がる訳では無いのだがルシウスはそんな事を考えていた。水浴びが終ると身を震わせて水を落とし少し御機嫌斜めだった。


(やっぱりオイルと石鹸そして櫛が欲しいよなぁ……)


 借りた布を水洗いして木の棒に干す、ここの井戸は洗濯物等をする時に使う様で使ったらここに干してくれと頼まれていた。


 水浴びを終えるとそのまま自分の部屋に戻ろうとしていたが、宿の入り口に行くと扉の前にライズがいた。


「おぉライズじゃん、どうした?」


 ルシウスの声に体をビクッとさせたライズは皮袋から櫛を取り出してルシウスに渡そうとしていた。


「ルシウスか、ビックリさせんなよ! これ使ってくれ

 お前何も受け取らなかっただろ? これは俺からの気持ちだ」


 ライズからそんな物貰うんじゃないぞとクロは戦闘体勢になった。クロを宥めながらルシウスは話をする。


「いやぁ、さっきも言ったけど気にする必要は無いよ! 俺も言い過ぎたし」


「いやぁでもだな、そこのクロの事も馬鹿にしてしまったし俺も本当はルシウス達と仲良くしたいんだぜ? ちょっと色々あって今日はやらかしちまったけど」


 ライズの勢いに断るのも悪いと思ったルシウスはライズから櫛を受け取る事にした。


「まぁそんなに言うなら有り難く受け取るよ! でもこれ高かったろ? 大丈夫なのか?」


「まぁボチボチだ。気にする事は無いぜ! 今度俺達が討伐系の依頼をやる時一緒にしような!」


 言いたい事を言って渡すものを渡すと納得したのかそのまま帰っていった。


(討伐依頼かぁ……ライズ達なら一緒にやっても良いよなぁ)


 クロは櫛を見てまぁ使ってくれても良いんだよ? とねだるように鳴いていた。


「じゃあ早速試してみるか?」


 部屋に直行するとクロはベットに腰を下ろすルシウスの膝の上に乗りその時を待っていた。


「こんな感じかな?」


 少し濡れていたが優しく櫛でといてやるとクロは

 弱々しく鳴いていた。


「気持ち良いのかな?」


 そのまま櫛でといてやると欠伸をして眠ってしまった。


「そんなに気持ち良いのか」


 リラックスするクロを見て櫛の動きを止めるとクロは目を覚まして櫛をトントンと叩き要求した。


「しょうがないなぁ……」


 そのままといてやると爺さんが食事を持ってくるまで作業は止まらなかった。食事が来るとしょうがないなぁと言わんばかりに爺さんが持ってきたクロ用のご飯を食べ始めた。


その食欲に苦笑いしながらも食事を始めると数分でご飯を平らげ、ご飯を平らげるとルシウスのご飯迄要求する。


(やっぱりプロが作るご飯の方が美味しいのかな……)


 ルシウスも呆れる程の食欲を発揮するクロに自分の食事をお裾分けして爺さんに明日からのクロの食事をお願いした。食事を食べ終えるとまた櫛を催促され夜が更けていった。

 

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