第16話初めての魔物
馬房と馬房の間にある受付カウンター迄行くとそこには爺さんとヒイラギがルシウスの事を待っていた。
「ルシウス君一週間ご苦労様、取り敢えず説明するね、この箱の中に魔玉が入っている入っている魔物はここで育った子達だよ。それで注意点だけどテイマーのスキルがあれば基本的に襲われる事は無い、しかし直ぐに懐く訳でも無いんだ。生き物だからね、まず箱から魔玉を一つ取って腕輪に填めてごらん」
ルシウスは箱の中に手を入れ魔玉を選別する。
ジャラジャラと音を立てながら選んでいくと一つだけとても温かい様な気がする魔玉があった。
(温かい気がする……よし、これにしよっ!)
「これにしますっ!」
ルシウスが取ったのは無色の丸い玉それを腕輪に填めた。
「填めたら次は魔玉を指で転がして呼ぶんだ。名前があるなら名前でも構わないし出てこい一言でも大丈夫だよ」
爺さんに言われた通りに指で転がして魔物を呼んだ。
「来てくれ俺の魔物っっ!」
ルシウスの一声に魔玉が応える、魔玉が白く発光するとカウンターに光が集束し光が消えるとそこには黒猫が丸まっていた。まだ子猫の様に小さく、よく見ると赤と青のオッドアイをしていた。
少し殺気だっており触れそうもない。
(この子が俺の魔物? 黒猫なんて此処で見たこと無いけど……)
黒猫を見て少し慌てる爺さん。
「ルシウス君が良ければだけど、もう一回引いて良いよこの子は辞めた方が良いと思う」
なんで辞めた方が良いのか疑問に思ったルシウスは、爺さんに理由を聞いた。
「この子はね……森の入り口で新人の女性冒険者に保護されてこの場所迄来たんだよ、闇で売り買いしている魔物の一つだと思う移動中に言う事を聞かなくてご飯も食べないから邪魔だと思われて捨てられたんだと思うんだよね、森の入り口なら他の魔物の餌にでもなると思ったんだろうね 」
「そんな酷い人が居るんですかっっ? この子弱ってますよ?」
爺さんは深刻そうな悲しい顔をしている。
「居るよ闇で売買される魔物は強い魔物か稀少な魔物だね、この子はシャドーキャットの稀少種だ。目の色は普通黄色なんだけどこの子は赤と青のオッドアイだし……稀少種は死にやすいから大人になれる確率は他の魔物より低いんだ。この魔物のランクは中位の下だから高い事は高いし強い事は強いんだけどねぇ……すぐに死んでしまったらアレだし……もう一回引いて良いよ?」
(見た目は可愛いし、強いなら文句は無い……それに呼ばれた様な気がするんだよなぁ……)
ルシウスは考える事も無く、引いた時にこの子に決めていた。
「自分はこの子にしますっ! ここの宿屋に泊まりたいのですが一泊いくらですか?」
「本当に良いのかい? この子で良いならこちらの不手際だし……一泊朝と晩の二食この魔物のご飯三食で……銅貨5枚で良いよ?」
「それじゃあ二十日程お願いします」
ルシウスは銀貨一枚を爺さんに渡すと渋々受け取り部屋の場所を聞いた。部屋の場所は何時も使う休憩所らしい、泊まる人が居なかったので休憩の際使っていたのだが本来は客室みたいだ。
「魔玉に戻す時は出す時と反対方向に転がして戻れと一言言えば戻るからね布団とご飯を用意するから部屋で待つと良いよ」
「この子のご飯は自分で作りたいんですが……乳とパンをもらえませんか?」
「じゃあ厨房にあるから勝手に使って良いよ」
「ルシウスお兄ちゃん僕もその子にご飯あげるの見てて良いかなぁ?」
「勿論良いよ、だけど勝手に触ったりしないでね?」
取り敢えず魔玉に戻しルシウスとヒイラギは厨房に向かった。乳でパンを煮込み離乳食を作る様だ。
厨房に着くとマジックアイテムで作られた食材保管庫から乳とパンを取り出す。
「ルシウスお兄ちゃんは何を作るんですかぁ?」
ルシウスの作る料理が興味津々なヒイラギに対して苦笑いを浮かべて答えた。
「大した物じゃないよ? 村で赤ちゃんの離乳食を作ってるのを見たことがあってね、乳とパンを煮るんだ」
厨房内にある薪をセットして火打石で火をつける、その後は小さい鍋に乳とパンを入れて煮込み、煮立て過ぎない様に火を調整しながら木のスプーンで形を崩してドロドロになったら完成だ。大体十分位だろう。
「なんか臭いが独特だけど、本当に美味しいの?」
見た目が災厄な料理に対してヒイラギは不安になっていた。
「大人が食べるとあまり美味しくないけど……赤ちゃんには体に優しいし良いんだよ」
厨房にあった木の器に移して部屋に向かう、部屋に着くと爺さんが布団を敷き子猫の為に揺り籠を用意してルシウスを待っていた。
「おぉ、ルシウス君料理出来るんだね? 凄いじゃないか!」
「そんな事無いですよ、揺り籠迄ありがとうございます」
ご飯をあげる為に子猫をベッドの上に出した。
相変わらず鳴き声もあげずに、静かに丸まっているだけだった。器を揺り籠の中に置いて取り敢えず赤ちゃんを抱えようと手を出すとルシウスの手に噛みつた。
「イテっ……大丈夫だよ!怖がらなくて良いんだ。俺は君を害したりしないから」
ヒイラギも爺さんも不安げな顔でルシウスを見守っている噛み付かれても気にせずに子猫を抱えて撫でた。
「怖かったよね? 大丈夫、俺は君を大切にするからその証拠に君に名前をつけるよ……君の名前はクロだ」
痛みに耐えながら三十分程時間が経つと噛むのを辞めてルシウスの指に吸い付いた。
「お腹が減ってるんだね? 今ご飯をあげるよ」
子猫を抱えながら器を取り、地べたに座った。
「ほーら、ご飯だよ!」
時間が経って丁度良くなったご飯をスプーンで掬ってクロの前に出すが食べる気配が無い、それを見てまずルシウスが口に入れて食べて見せた。クロはルシウスが食べるのをクリクリした目で観察している。
「美味しいっ! 食べてみるかい?」
もう一度掬いクロの前に出すと少しづつ食べ始めた。スプーンのご飯を食べ終えると弱々しく鳴いた。
「にゃ?……」
「もっと食べたいんだね?」
おかわりを要求するクロを見て一安心するのと同時にスプーンでおかわりを食べさせた。時間が掛かったがお腹が減ってたのだろう全て平らげ静かにこくりこくりと眠そうにしている。
「私はお湯と布を持ってくるから傷口を綺麗にした方が良い」
「ルシウスお兄ちゃんっ! 凄いよ! 凄いよ! クロちゃん本当に可愛いよねぇ……僕も触りたいなぁ」
爺さんはお湯と布を取りに下に降りたがヒイラギは興奮状態で触りたそうにしている、触らせてあげたかったが噛まれたら大変なのでもう少し馴れる迄ダメと言うしかなかった。
残念そうな顔をしていたが和んでいるクロを見て納得してくれた様だ。
「ここが今日からクロのお家だよ? 一杯寝て一杯食べて大きくなってね!」
揺り籠にクロを寝かせて布を掛ける。
「にゃー! にゃー!」
先程迄弱々しく鳴いて居たのに僕を捨てないでと言わんばかりに力強く鳴いていた。弱っているのにこのまま鳴き続けると悪化すると思いまた抱き上げる
「大丈夫だよ! 俺はクロを捨てたらしないから」
ルシウスの声に安心したのかクロは眠りについた。
暫くしてお湯と布を持ってきた爺さんはその姿に驚愕した。
「このお湯と布で傷口を拭いた方が良い、しかしこんなに懐くなんて……ルシウス君は凄いね!」
凄いと言われて嬉しくなったルシウスだったが、爺さんのお陰だと思っていた。
「お爺さんのお陰ですよ初めてここに来た時気持ちを込めてお世話をしたら魔物は分かってくれるって言いましたよね? 自分はそれを実践しただけです」
爺さんはまさかルシウスにそんな事言われると思って無かったので恥ずかしそうに、そして嬉しそうにしていた。
「じゃあ私とヒイラギ君は下に戻るね」
「ルシウスお兄ちゃんっ! クロが馴れたら僕にも触らせてね?」
「分かった。時間が掛かると思うけど、馴れたら可愛がってやってくれ」
ルシウスと約束を取り付けたヒイラギは嬉しそうにスキップをしながら爺さんと部屋を出ていった。
眠ってしまったクロを撫でながらルシウスは考えていた。
(こんな子猫を捨てるなんて……人間って最低だよな……)
クロを抱えながら横になるとそのまま眠りについた。
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