第15話くじ引き


翌日寝不足の中気合いを入れ直し朝食を食べる何時もは一人での朝食だが、今日はヒイラギと一緒に食べていた。眠そうにしているルシウスを見てヒイラギは心配していた。


「ルシウスお兄ちゃん、眠そうだけど大丈夫?」


 年下に心配される事に少し苦笑いし面目無いなぁと思いながらも、くじの事が頭から離れなかった。


「大丈夫、大丈夫! 今日くじを引くんだけど、人生初の自分だけの魔物をゲット出来る事に興奮して寝れなかったんだぁー」


「そうなんだ、なんか羨ましいなぁ……」


 ヒイラギと話をしている中その話さえも上の空でくじの事しか考えられない。


(くじ!くじ!まま魔物っっ!)


 変な歌を心の中で歌いながら朝食を平らげヒイラギと別れて午前中は別行動だ。


 昨日までと同じで馬の世話から一日が始まるが最終日という事もあって少しばかりの喪失感に苛まれた。最初こそは警戒され上手く付き合えなかった魔物だけども今では愛情を注ぎ、シルバーキャットや赤ちゃん達等の懐いてくれる魔物も少なからず存在しているからだ。


今日でこの仕事も一つの節目を迎える事に感慨深い物があった。


 少し悲しい様な寂しいような気持ちが心を支配していく、そんなルシウスに気付いた爺さんはまたおいでと優しい言葉をかけた。


「良いんですか?」


「今日で本当に最後って訳じゃないよ、うちは小さいけど宿屋もやってるしこの仕事だって協会の方に依頼を出してるんだよ。もしヤル気があるならまた来たら良いと思う。私達も助かるしね」


「絶対また来ます!」


 何時もよりも口数の多い爺さんとの他愛も無い雑談にルシウスの心から暖かい物が流れる感じがした。


 何時もよりも気持ちを込め作業するルシウスにレッドホース以外のホース系の魔物が近寄ってくるそんな光景を見て癒されていた。


 今日はホース系のお世話もする事に決め一頭ずつ丁寧に時間をかけ綺麗にしていく、シルバーホースから始まりホワイトホース、ブラックホースと順番に時間を掛けて作業をしていった。


 昨日まで興味も無さそうにしていたホース系だったが今日はしょうがないからやらせてあげるよと言う様にしおらしく、これ迄頑張った事は無駄では無かったんだと感無量だった。


 レッドホースだけはお前なんか知らんと言わんばかりにそっぽを向いてルシウスと目も合わせようとしない。


(彼奴だけは無理だったかぁ……)


 その表情を見て少しガッカリはしたが他のホース系の魔物が気持ち良さそうにしているのでその顔を見て和む。


 馬達の世話を終えて四人で昼食を摂る、婆さんとヒイラギは二日目という事もあって赤ちゃん達の世話だけは終らせた様だ。


「今日はシルバーキャット達の世話を終えたらルシウス君は終わりで良いからね?そしたらくじを引いてみようね」


「ルシウスお兄ちゃん良いなぁ……格好良い魔物が当たると良いね」


「まぁどんな魔物でも大切に育てるから気の合う奴がが良いな」


 談笑しながら昼食を食べ終えるとシルバーキャットの所へ向かう、ウルフ達は唸る事は無かったが婆さんと外に出る時まぁお前も頑張れやと言う様に尻尾でナルカの足を数回叩くと婆さんの元へ走っていった。


(可愛いんだか、可愛くないんだか……でも良い奴なんだな……)


 ルシウスの雰囲気が何時もと違う事で別れが近い事を悟ったウルフ達は、最終日になって少しだけではあるが認めてくれた様だ。


 シルバーキャット達もポンポンとルシウスの足を叩くと少しばかり心配している様だ。


「分かってる! また遊びに来るから心配しなくて良いんだよ?」


「にゃあ?」


 ルシウスが一声掛けると安心したのか、何時もの調子に戻っていった。


(魔物ってなんでも察してしまうんだな……)


 何時も以上に気合いを入れ時間を掛けて綺麗にする、シルバーキャット達は何時もよりも激しくルシウスの頭を叩いていた。


「止めてくれっ! 禿げたらどうしてくれるんだよっ!」


 若禿げになる事に恐怖したルシウスだったがそんなシルバーキャットを下から覗くと首を傾げとても可愛いポーズを決めていた。


(これは確信犯か?)


 少し疑いを持ったが可愛さに負け、これなら貴族も購入するだろうと勝手に納得していた。


 作業も終え果物を食べさせて寝かせようとするが、シルバーキャット達はルシウスから離れない。


「どうしたんだ? もう終わったよ?」


「にゃにゃにゃ」


 ルシウスが呼び掛けても返事はするが退く気配が無い、そんなルシウスを見ていた婆さんはウルフ達を連れて戻ってきた。


「ルシウス君モテモテだねぇ?」


「何時もなら寝るのにどいてくれないんですよね」


 婆さんの一声に苦笑いをするルシウスだったが、心の中では嬉しくて堪らなかった。


「そうかい魔物は分かるんだよ? 人間なんかよりも素直だし一度心を許せば、裏切る事は無いんだよ」


「でも会話をしたり出来ないですよね?」


「そうだね、高位の魔物なら念話ができる事もあると聞いた事はあるね、後はスキルの実だったら可能性があるかね会話が出来なくても感じ取る力があるんだろうねぇ私が移動させるからちょっと待っておくれ」


 婆さんが一体、一体優しく抱えると嫌がる様に時折「にゃっ!にゃ!?」と鳴き声をあげていた。

 ルシウスも一緒に優しく抱えて撫でながら藁の上に置き、眠りにつく迄側に座り撫でた。


暫くすると安心したのか眠りにつき静かになった。


「寝たようだからくじを引いて来てごらん」


「分かりましたっ!」


 寂しさを圧し殺しルシウスは爺さんの所へ足早に向かった。

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