第14話メアリーその後
ルシウスが村を出てから直ぐ様メアリーは行動した。
まずは朝、昼、晩のご飯の手伝いを母親に申し出ると、すぐに母親が了承し手伝う事になった。それまでメアリーは食べる事がメインで作る事は得意では無かったが、ルシウスが練習を始めて暫く経つと触発された様に簡単なお菓子の作り方を母親に教えてもらった。
ルシウスの為にクッキーを作った位しか料理の経験も無いが最初の頃はそのクッキーの毒味をした父親が三日程寝込むという珍事件が起こった。
その際父親はメアリーに「ちょっと軟弱なんじゃないの? ルシウスならそんな事にならないでしょっ!」
と一蹴され父親はルシウス君でもこうなると言おうとしたが怖くて言えなかった。
三日程寝込んで復活するとまた食べて寝込むという苦行をやりとげた父親のおかげで、ルシウスが寝込むという事も無くメアリーも喜ぶ事が出来たのだ。
何故料理人のスキルを授かったのか疑問に思った父親だったがこれは自分の為の修行なのだと変な境地に入る、今日もメアリーが作る料理を笑顔で耐え寝込む予定だ。
「お父さん出来たよ」
今日はメアリーが初めて一人で料理を作る日だった。悪魔の囁きが父親の耳まで聞こえるとその声が脳まで届き失神しそうになるが耐える、これは修行なのだ。
「おっ、おう……美味しそうじゃないかっ!」
父親のその顔を見て可哀想になったが辞めようとしても父親が辞める事も認めずルシウスが旅立った後もこうして続けている。
「お父さん無理しなくて良いよ? 美味しくないんでしょう?」
メアリーの言葉を聞き変な汗が出る父は、男は口で語るなと言わんばかりにメアリーが作ったスープを直に飲んだ。父親は全身を震わせながら一気に飲み干し、脂汗を流し気を失いそうな所を行ったり来たり気合いで踏みとどまっていた。男の中の男とは彼の様な人の事を言うのだろう。
「うっ……ぐっ……」
なんとか耐えてみせようと気合いを入れた父親が言った言葉にメアリーは唖然とした。
「うっ……うま……い……もう……一杯だっ!」
父親は最後の言葉を絞りだしてすぐに白目を剥いて倒れてしまった。床に倒れた父は身体中が痙攣しており今にも逝ってしまうと思わせる程だ。
「お父さん! お父さんっ!」
父親に近づき揺さぶるが起きる気配が無い何がなんだか分からない言語を呟き続けると、途中で緊張の糸が切れたかの様に動かなくなった。
(そんなに美味しくないのかな?)
メアリーは息を止め父親がおかわりを頼んだスープを一口飲んだ……
「うっ……」
メアリーはスープを口に含むとものの数秒で父親と共に昇天した。母親はそれを見て呆れてしまうが昔の自分と重ねてしまう。
「こんな料理しか作れない娘なんて……可哀想だわ……私も昔は・・・この料理なら魔王でも倒せそうね」
母親は二人の上から布団を被せ勿体無いがこれ以上の被害者を生まない為に、家の裏手に穴を掘って埋めた。その後数ヶ月野生動物が裏手で意識を失う騒動が続いた。
「これならルシウス君が居なくて本当に良かった……こんな状態を知られたらメアリーだって嫌われてしまうわね、だけどメアリーを仕込むには時間が掛かりそう……このままだとルシウス君を殺しかねないわぁ」
メアリーの料理の腕が悲惨な事に母親は頭を抱え、少し目眩を覚えた。それから一ヶ月程父親とメアリーを気遣った結果母親が手伝いだけにするように言うとメアリーも渋々だが認め、父親は声すら発する気力もなく項垂れた。
この時村の中でメアリーの父親の体調が悪いと噂になったのだが、あながち間違えでも無くだからと言ってなんの病気だったのかは誰も知る事は無かった。
父親は墓場迄持っていく事を覚悟すると、今日もメアリーが手伝っただけの普通の料理にさえ震え上がってしまう父だった。
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