その⑥「炸裂の魔法使い VS 少佐」
「炸裂!」
成行の叫び声を聞いて、瞬時に引き金を引く隊長。
しかし、拳銃の弾よりも、成行の放った炸裂魔法の方が速く、破壊力が大きかった。
衝撃波は弾丸を弾き飛ばすと、隊長を吹き飛ばし、さらに背後の壁と天井をも吹き飛ばした。
轟音の後、夜空から月の光が降り注ぐ。
息の荒い成行。心臓が今までにない位にバクバクと音を立てている。
イチかバチかの賭けだった。炸裂の魔法で拳銃の弾が防げなかったら、成行の命はなかっただろう。
だから、オンの状態にして魔法を放つとき強く意識した。『銃弾をも弾き返すような炸裂を』と。
隊長の姿が見えない。壁と天井まで吹き飛ばしたので、埃と瓦礫で隊長の姿を目視できない。
「まさか、死んじゃった・・・?」
さすがに命まで奪う気はなかった成行。
これはマズいかもしれない。いくら誘拐犯相手でも、ジャック・バウアーではないのだから、殺してしまうのはやりすぎだ。
後悔と不安が入り混じる成行だが、それは
瓦礫が吹き飛び、中から隊長が姿を現す。
「油断していた。まさか、キミがこれほどの力を得ていたとは・・・!」
「よかった。無事で」
隊長の存命に安堵する成行。
不意に隊長と成行以外の人物の声がした。それは無線機からだった。
隊長は無線機を手にして何かしゃべる。件の聞きなれない外国語だ。何かを指示しているのは、雰囲気でわかる。
隊長は無線機をしまうと、今度はどこからともなく斧を取り出した。月の灯りで輝く銀色の斧。美しくも大きな刃が、おどろおどろしい。
隊長は瓦礫の上から飛び降りる。
「残念だが、手に負えないようなら、ここで決めるしかない・・・」
斧を手にじりじりと成行に迫る隊長。
「待った!僕はまだ素人で威力の調整ができなかったんだ。隊長は生きているけど、殺すつもりはなかったんだ」
怯えながら言う成行。これでは、どっちが悪い奴なのかわからない。
「キミも男なら、最後まで戦え!」
隊長は斧を振りかざして成行に迫る。
「ちょっと!危ないって!」
とっさに逃げる成行。
「逃げずに戦え」
成行は隊長に追われて、瓦礫の山に登る。
と、遠くからサイレンンの音が聞こえる。誰かが爆発に気づいて通報したのだろう。
「これで助かった・・・」と、呟くよりも先に、隊長が凄まじい勢いでジャンプした。
瓦礫の麓から一瞬で成行の元まで飛び跳ねる。美しい斧が成行に襲い掛かる。
「うわっ!」
避けようとして、バランスを崩す成行。今度は瓦礫の麓まで転げ落ちる。
「痛ってえ・・・」
残骸に全身を打ち付けて悶絶する。成行が仰向けになると、首筋に冷たい感覚がした。あの斧だ。鋭くも美しい刃が成行の首筋に触れている。
「ここまでだな。キミは貴重なサンプルになるはずだったが、無理そうだな」
「考え直してくれない?」
引き
「キミの魔法は脅威だ。シンプルだが、その力が我々の脅威になるのであれば排除せねば」
月明りを背に隊長は言う。
「じゃあ、今の僕は決して弱くないってこと?」
「ああ。そのポテンシャルは未知数だからな」
「褒めてくれるの?」
「褒めてあげるよ。キミは私たちの手に負えない存在になるかもしれない」
隊長は少し笑う。
「そう。なら、安心した」
「それはどういう意味だ?」
首を傾げる隊長。
吹き飛んだ天井を見れば、夜空の月が美しい。
「周囲・・・」
ゆっくり喋る成行。いかにも苦しそうに喋ってみせた。
「周囲?周囲がどうした?」
「周囲を・・・」
怪訝そうな表情で隊長は、成行の顔をのぞき込む。
「炸裂・・・」
成行は隊長と目が合う。隊長の目が驚きで丸くなったのがわかった。
その瞬間、今までにない衝撃波が成行から放出され、周囲の物を吹き飛ばす。
瓦礫の山、まだ残っていた建屋の壁や天井、屋根。そして、隊長を。
放たれた炸裂魔法が、建物そのものを内側から弾き飛ばした。大爆発が起こり、壁や鉄筋が天高く舞い上がる。
天高く舞い上がった残骸たちは地上めがけて降り注ぐ。
仰向けに横たわる成行。彼には、それがスローモーションで見えた。これでは瓦礫の下敷きだ。良いアイディアだと思ったが、降り注ぐ瓦礫のことまで考えていなかった。
「ダメだ・・・」
『助からない』の一言が、言葉にできなかった。最後を覚り、目を瞑った。
降り注ぐ瓦礫の豪雨。死ぬなら苦しまない方がいいなと思った。
何かが成行にぶつかる。勢いよくぶつかったので痛いが、怪我はしなかった。
瓦礫の豪雨は、やがて止んだ。轟音も治まる。残骸が吐き出す埃で息がし辛い。
「ん・・・?」
おかしい。痛くない。瓦礫で押しつぶされて、挽き肉になっても仕方ないのに。何も痛くない。まさか、魔法強化剤のおかげで怪我をせず済んだのか。
成行が目を開けると、そこには何と制服姿の見事がいた。
「えっ!静所さん・・・?」
目に涙を貯めている見事。
「これはどういうこと・・・?」
「それはこっちのセリフ!」
喚く見事。堰を切ったように彼女は泣きだした。
仰向けの状態の成行。それに覆い被さるように見事がいた。雨のように降り注いだ瓦礫は、ピタリと彼女の体の寸前で止まっている。
「凄く心配したんだから!」
「・・・!」
見事は泣きながら言う。
「どうやって、ここがわかったの?」
「それは今、いいから早く逃げましょう」
見事は右手で瓦礫を振り払う仕草をする。すると、山盛の瓦礫が木の葉のように吹き飛んだ。周囲から障害物が取り除かれる。
「早く」
顔を手で拭って、成行に手を差し出す見事。
「ありがとう・・・」
「急ぎましょう。消防も、警察も来るわ」
見事に手を引かれ、脱出をする成行。
見れば、周囲は瓦礫の山だった。恐らくは大きな工場だった建物は、成行の炸裂魔法で破壊されていた。今更ながら、関係ない人を巻き込んでいないか心配になる成行。
だが、それを見事に言っても、彼女は手を放してくれないだろう。
それだけ、強く見事は手を握っていた。
サイレンの音がすぐ近くまで響き渡る。赤い灯が無数に迫る。
今、ここがどこかはわからないが、都内のどこかだろう。工場の敷地を離れ、草が生え始めている更地を真っ直ぐに走った。
どれくらい必死に走っただろうか。声が聞こえた。
「おーい!」
前方に目を凝らしてみると車が止まっているのが見える。暗くてはっきりと見えないが、SUVのようだ。
更地の向こうに、道があるようだ。そこに止まっていたのは白いランクル。そして、手を振る雷鳴がいた。
無言で手を振り返す見事。
「無事か?ユッキー」
雷鳴は成行に近づく。
全速力で走り、息も絶え絶えの成行。
「大丈夫です。生きてます・・・」
息を切らしながら答える成行。
ここから離れたあの工場跡では、複数の警察、消防車両のランプが炎のように見える。
「さあ、帰ろう!車に乗って!」
「成行君、大丈夫?乗れる?」
見事の問いに無言で頷く成行。
二人を乗せて雷鳴はランクルを発進させた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます